法人税法における固定資産と減価償却の基本をやさしく解説
こんにちは、税理士の飯野明宏です。今回は、法人税を理解するうえで欠かせない「固定資産」と「減価償却」について、基礎から丁寧に解説していきます。企業活動において、資産の取得・管理・償却は、会計と税務の両面で非常に重要な論点です。この記事では、法人税法上の位置づけや、実務に役立つポイントまで網羅的にご紹介します。
第1章|固定資産の定義とその範囲
法人税法において「固定資産」とは、棚卸資産、有価証券、暗号資産(資金決済法第2条第5項に規定)、繰延資産を除いた資産を指します。特定の目的のために継続的に事業に利用される資産が該当します。
例:
- 事業で使用する建物、車両、機械設備など
同じ種類の物でも、保有目的によって「棚卸資産」となるか「固定資産」となるかが異なります。
- 自動車販売業者が販売のために持つ自動車 → 棚卸資産
- 社員の営業用に使用する自動車 → 固定資産
第2章|減価償却資産とは?
固定資産のうち、時の経過や使用によって価値が減少する資産は、「減価償却資産」として、取得価額を耐用年数に応じて費用として配分します。この手続きを「減価償却」といい、1年ごとに計上される費用を「減価償却費」といいます。
減価償却資産の主な分類:
- 有形資産:建物、構築物、機械装置、車両運搬具など
- 無形資産:特許権、商標権、ソフトウェア、営業権など
- 生物資産:牛、馬、果樹など
減価償却の対象とならないもの(非減価償却資産):
- 土地
- 借地権
- 白金製品
第3章|取得価額の考え方
減価償却を行うためには、まず「取得価額」を明確にする必要があります。取得価額は、資産の購入代金だけでなく、以下のような付随費用も含まれます(法令32、通達7-3-1):
- 引取運賃
- 荷役費
- 運送保険料
- 設置費・試運転費
- 購入手数料
- 関税 など
これらは、資産を使用可能な状態にするために必要な支出であり、取得価額として計上され、耐用年数に応じて償却されていきます。
第4章|少額資産・使用可能期間1年未満の資産の取り扱い
法人税法上、一定の条件を満たす場合には、減価償却をせずに取得時に全額損金処理することが可能です。これには以下のような規定があります。
1. 少額減価償却資産の特例
- 取得価額が10万円未満の資産 → 取得時に全額損金算入可能
- 中小企業者が30万円未満の資産を年300万円まで取得した場合 → 即時償却可能(要青色申告)
2. 使用可能期間が1年未満の資産
- 耐用年数が1年未満と見込まれる資産 → 減価償却の対象外として、取得時に全額損金算入可能
第5章|償却方法と法人税法上の取扱い
法人税法では、償却方法として主に以下のものが認められています:
- 定額法
- 定率法
企業は、資産の種類ごとに税法で定められた方法の中から選択しなければなりません。
減価償却費は、次の少ない方を損金に算入します:
- 税法上の償却限度額
- 決算で損金経理された額
計上しなかった場合、税務上も損金不算入となるため、決算時の正確な処理が不可欠です。
第6章|税務調整における減価償却
企業会計上と税法上の減価償却費が異なる場合、次のような税務調整が行われます。
- 償却超過額:会計で多く償却 → 別表四で加算(留保項目)
- 償却不足額:会計で少なく償却 → 前期の超過額と相殺し、減算可能
これにより、税額の算出に公平性が保たれるよう、法人税法は詳細な規定を整備しています。