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iDeCoが2025年に大きく変わる!掛金上限額引き上げと知っておきたい注意点

1 iDeCoの基本的な仕組みと税制メリット

「iDeCo(イデコ)」は、自分で老後資金を積み立てる私的年金制度です。
2025年(令和7年)から制度改正が予定されており、今後の資産形成に大きく関わる内容となっています。

1-1. iDeCoの概要

  • ■対象者:20歳以上65歳未満の公的年金加入者(改正後は70歳未満まで拡大)

  • ■運用方法:自分で選んだ商品(定期預金・投資信託等)で積み立てを運用

  • ■受取:原則60歳以降に受け取り可能(一時金・年金形式を選択)

1-2. 3つの税制優遇

  • ■拠出時(積立時):掛金は全額「所得控除」の対象

  • ■運用時:運用益が非課税(通常は20.315%の課税)

  • ■受取時

    • □一時金受取:退職所得控除が適用

    • □年金受取:公的年金等控除が適用

ideco積立


2 2025年の税制改正ポイント

2025年からiDeCoに関する大きな変更点が3つあります。

2-1. 掛金上限額の大幅な引き上げ

従来の加入者区分に応じた掛金上限が大幅に見直され、税制優遇を受けやすくなります。

加入区分現行上限額改正後上限額(2025年~)
第1号被保険者(自営業・フリーランス)月額68,000円月額75,000円
第2号(企業年金なしの会社員)月額23,000円月額62,000円
第2号(企業年金あり)月額20,000円または12,000円(iDeCo独自)月額62,000円(企業年金と合算)

※「iDeCo独自の上限」が撤廃され、企業年金と合算した全体の上限額で一本化されます。

2-2. 加入可能年齢が「70歳未満」へ拡大

これまでの加入年齢制限は65歳未満でしたが、2025年以降は70歳未満に。長く働く人にとって、資産形成の期間が延びるメリットがあります。

2-3. 退職所得控除の「5年ルール」が「10年ルール」に変更

2026年1月以降、一時金として受け取ったiDeCoの控除が、10年以内に退職金を受け取ると合算されるルールに変更されます。

例:
60歳でiDeCo一時金 → 65歳で退職金
⇒ 控除が合算され、退職金への課税が増える可能性あり


3 改正によるメリットとデメリット

3-1. メリット

  • ■掛金上限アップにより、節税効果と積立額が大幅アップ

  • ■加入可能期間が延長され、長期運用による資産形成の可能性が広がる

  • ■税制優遇の活用範囲が広がり、特に会社員・公務員に有利

3-2. デメリット・注意点

  • ■掛金負担が家計を圧迫する可能性

  • ■原則60歳まで引き出し不可(資金拘束)

  • ■相場変動による元本割れリスク

  • ■加入・運用・移管時に手数料が発生

  • ■一時金受取時の課税リスク(10年ルール)


4 受取時の税負担を軽減する方法

税負担を軽減するためには「受取タイミング」が重要です。

4-1. 退職金との受取タイミングを10年以上空ける

  • ■60歳でiDeCo受取 → 70歳で退職金
    または

  • ■60歳で退職金 → 70歳でiDeCo受取
    ⇒ それぞれに退職所得控除を適用でき、課税を回避

4-2. 年金形式での分割受取を検討

  • ■年金形式で受け取れば「公的年金等控除」が適用

  • ■雑所得扱いとなるが、一時金方式より税負担を抑えられる場合も


5 まとめ:iDeCo改正をチャンスに変えるには?

2025年からのiDeCo改正は、税制優遇の拡大と資産形成機会の増加という点で、多くの人にとって好機となります。

ただし、掛金の増額や10年ルールなど、注意すべきポイントも増えます。
そのためには、

  • ■ライフプランに合わせて無理のない掛金設定をすること

  • ■NISAや生命保険などと併用してリスク分散すること

  • ■退職金とiDeCoの受取タイミングを戦略的に設計すること

が重要です。

相続税の専門院

飯野明宏税理士
この記事を書いた税理士

飯野明宏税理士公認会計士事務所
代表税理士 飯野 明宏

東海税理士会富士支部所属 登録番号:127320号

公認会計士協会東海会 登録番号:31555号

静岡県富士市横割出身。静岡県立富士高校を卒業後、慶應義塾大学理工学部を経て、早稲田大学大学院会計研究科でMBAを取得。

大学院修了後は、あらた監査法人(PwC Japan有限責任監査法人)や、都内の税理士法人にて勤務。

現在は、地元・富士市・富士宮にて「飯野明宏税理士公認会計士事務所」を運営し、法人税・相続税の両面に強みを活かした専門的なサポートを提供しています。

中小企業の事業承継をサポートする支援制度と専門家

はじめに|事業承継は一人で抱え込まないことが成功のカギ

事業承継は、単なる社長交代ではなく、経営者としての責任・資産・関係性を次世代へ託す重大なプロジェクトです。
後継者の選定や育成、株式や資産の承継、税金や資金調達、親族・取引先との調整など、多岐にわたる課題を一人で抱えている経営者も少なくありません。

しかし、これらを一人で乗り越える必要はありません。国・地域・専門家による事業承継支援制度が整備されており、上手に活用することでスムーズな承継が可能になります。


1 事業承継を支える主なサポート機関と専門家

事業承継の各ステップでは、専門的な知識と経験を持つプロフェッショナルの支援が不可欠です。

1-1. 士業・専門家

専門家役割
税理士株価評価、事業承継税制、納税資金対策など
弁護士契約、遺言、信託、相続トラブル対応
司法書士株主名簿や登記関連の手続き
公認会計士財務分析、企業価値評価、会計処理
中小企業診断士経営計画策定、磨き上げ支援
社会保険労務士従業員の雇用契約や組織変更支援

顧問の士業がいる場合は、企業の実態や関係者の状況を熟知しており、承継支援において特に頼れる存在です。

1-2. 金融機関

  • ■事業承継計画の共有

  • ■株式買取資金や納税資金の融資

  • ■個人保証の解除交渉

金融機関もパートナーとして承継を後押ししてくれます。

1-3. 公的機関・相談窓口

機関名主な機能
商工会議所・商工会事業承継診断・経営相談・家族会議の開催支援
事業承継・引継ぎ支援センターM&A・親族内承継のマッチング・アドバイス
中小企業活性化協議会事業再生支援、承継再挑戦の相談窓口
よろず支援拠点経営課題のワンストップ相談
登録M&A支援機関中小企業庁登録済みの専門業者によるマッチング

専門家


2 活用できる主な支援制度・ツール

制度を活用することで、事業承継の準備・実行をよりスムーズに、かつコスト・リスクを抑えて行うことができます。

2-1. 診断・計画策定支援

  • ■事業承継診断
    準備状況を可視化し、課題を明確に。60歳以上の経営者に推奨。

  • ■事業承継計画
    いつ、誰に、どのように承継するかを文書化。テンプレートあり。

2-2. 金融支援

  • ■経営承継円滑化法に基づく

    • □日本政策金融公庫の特別融資

    • □信用保証協会の別枠保証

事業承継のための株式取得や資産買取、納税資金などに対応。

2-3. 税制措置

  • ■事業承継税制(非上場株式等の納税猶予・免除)

    • □特例制度は2027年までの時限措置

    • □計画提出などの要件あり。税理士と要相談


3 株式・資産の承継をスムーズにする対策

事業承継において、株式や事業用資産の分散防止やトラブル回避のための手段も制度化されています。

有効な対策と制度

対策説明
遺言後継者への集中承継が可能。ただし形式に注意
民法特例遺留分計算から特定資産を除外・固定可能
種類株式配当や議決権の設計で柔軟な株主構成が可能
信託活用経営者の意思を反映。認知症リスク対策にも有効
所在不明株主の整理承継障害のある株主の処理が可能に(特例あり)

4 その他の有効な手段

生命保険の活用

  • 死亡保険金の非課税枠活用

  • 納税資金や株式買取資金、引退後の生活資金として機能

持株会社の設立

  • 親族内承継時に、株式の集中管理や分散防止が可能

  • 法人化することで節税効果やガバナンス強化も


まとめ 事業承継は「共通課題」。だからこそ支援を活用しよう

事業承継は経営者だけの課題ではありません。支援機関・専門家・家族・従業員・取引先すべての“共通課題”です。

  • 経営者自身が早期に動き出すこと

  • 信頼できる支援機関・専門家とつながること

  • 制度やツールを活用して、トラブルを未然に防ぐこと

これが、後継者にも関係者にも安心される「成功する承継」への第一歩です。

相続税の専門院

飯野明宏税理士
この記事を書いた税理士

飯野明宏税理士公認会計士事務所
代表税理士 飯野 明宏

東海税理士会富士支部所属 登録番号:127320号

公認会計士協会東海会 登録番号:31555号

静岡県富士市横割出身。静岡県立富士高校を卒業後、慶應義塾大学理工学部を経て、早稲田大学大学院会計研究科でMBAを取得。

大学院修了後は、あらた監査法人(PwC Japan有限責任監査法人)や、都内の税理士法人にて勤務。

現在は、地元・富士市・富士宮にて「飯野明宏税理士公認会計士事務所」を運営し、法人税・相続税の両面に強みを活かした専門的なサポートを提供しています。

親族?従業員?M&A?事業承継の3つの類型とそれぞれの特徴

はじめに|事業承継の選択肢は一つではない

事業承継というと、かつては「息子に継がせる」という親族内承継が主流でしたが、近年では従業員承継第三者承継(M&A)といった選択肢も一般化しています。

それぞれにメリット・デメリットがあり、経営者の意向会社の状況後継者の有無などにより、最適な類型は異なります。

本記事では、事業承継の3類型の特徴と注意点をわかりやすく解説します。


1 親族内承継:家族に引き継ぐ伝統的な形

特徴

  • 現経営者の子・兄弟姉妹・孫などに承継

  • ■所有と経営の一体化がしやすく、経営理念や価値観の継承にも適している

最近の傾向

  • 若年層の多様な価値観、業種への不安などから親族内承継は減少傾向

  • それでも地域密着型企業では今も有力な選択肢

主な課題と対策

課題対策
税負担(贈与税・相続税)事業承継税制の活用(納税猶予・免除制度)
株式の分散遺言・種類株式・信託の活用、民法特例による調整
後継者の同意・育成家族会議、計画的な育成プランの設計
親族間の調整早期に意向を共有し、協力体制を築く
債務・保証の問題債務整理、経営改善、保証解除交渉

事業承継 (5)


2 従業員承継:社内の人材に託す

特徴

  • 役員や従業員など、社内の信頼できる人材に承継

  • 経営方針の継続が可能で、現場をよく知る後継者によるスムーズな移行が期待される

最近の傾向

  • 親族内承継の減少を受けて増加傾向

  • 種類株式や持株会社の活用により、資金的ハードルも下がってきている

主な課題と対策

課題対策
他の従業員・役員の理解社内説明会、段階的なリーダーシップ移譲
親族株主の承認株主構成の調整、合意形成の支援
経営知識の不足外部研修、OJT、専門家との連携
個人保証の承継債務圧縮、金融機関との保証解除交渉
所有と経営の分離株式移転も含めた中長期の承継設計が必要

3 社外承継(M&A):第三者に売却・引継ぎ

特徴

  • 親族・従業員に後継者がいない場合の選択肢

  • ■会社の存続と従業員の雇用維持が可能で、引退後の資金確保にもつながる

最近の傾向

  • M&A市場が活性化。中小企業の「スモールM&A」も増加

  • 事業承継としてのM&Aは社会的にも注目されている

主な課題と対策

課題対策
手続きの煩雑さM&A仲介業者・FAの活用で効率的に進行
許認可の承継事業譲渡・合併のスキーム選択に注意
関係者への説明金融機関・取引先・従業員への丁寧なコミュニケーション
企業価値の適正把握バリュエーション・デューデリジェンスの実施
社風・文化の違い引継ぎ期間の確保、事前のマッチング精度向上

M&A


4 どの承継方法を選ぶか?判断のポイント

どの類型を選ぶかは、以下の要素をバランスよく判断することが大切です。

判断基準チェックポイント
後継者の有無家族に承継意思があるか?社内に適任者がいるか?
経営者の希望株を残したいか?引退後の資金を重視するか?
社員・取引先との関係承継方法によって信頼関係に影響が出ないか?
時間的余裕準備期間が十分にあるか?

まとめ 自社に合った承継形態を見極め、早めの準備を

事業承継は、企業の未来を左右する重大な経営課題です。以下の3つの類型にはそれぞれ異なる特徴とハードルがあり、最適解は企業ごとに異なります。

  • ■親族内承継:理念や文化の継承に強み。家族調整・税務対策がカギ

  • ■従業員承継:社内理解が得られればスムーズ。株式・保証の整理を要検討

  • ■M&A(第三者承継):後継者不在でも事業存続が可能。交渉力と専門支援が成功の鍵

事業承継は「ある日突然」できるものではありません。 健康なうちに、関係者と十分な話し合いを重ね、数年単位で計画的に準備を進めていくことが成功の秘訣です。

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飯野明宏税理士
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飯野明宏税理士公認会計士事務所
代表税理士 飯野 明宏

東海税理士会富士支部所属 登録番号:127320号

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静岡県富士市横割出身。静岡県立富士高校を卒業後、慶應義塾大学理工学部を経て、早稲田大学大学院会計研究科でMBAを取得。

大学院修了後は、あらた監査法人(PwC Japan有限責任監査法人)や、都内の税理士法人にて勤務。

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後継者に安心して引き継ぐために|事業を「磨き上げる」実践ガイド

はじめに “見える化”の次は「磨き上げ」

事業承継におけるステップ2で、自社の経営状況や課題が明確になったら、次は「ステップ3」=磨き上げ(経営改善)です。

このステップは、後継者が安心してバトンを受け取るための経営状態の強化を目的とします。強みをさらに伸ばし、弱点を補い、しなやかで持続可能な経営体制を整えることが求められます。


1 本業の競争力を強化する

自社の「強み」を伸ばし、「弱み」を改善する

  • 人気商品やシェアの高いサービスの強化

  • 技術や品質の向上

  • 人材の育成・採用による組織力強化

  • 取引先や業種の偏りを見直し、リスクを分散

活用できる制度:「経営力向上計画」

「中小企業等経営強化法」に基づく経営力向上計画は、税制優遇や金融支援が受けられる制度です。競争力の強化に役立つだけでなく、後継者の育成にも有効です。

ベンチャー型事業承継という選択肢も

後継者が新しい事業に挑戦したり、既存事業を再構築したりする「ベンチャー型事業承継」の事例も増えています。若い感性や発想を生かすことで、大胆な経営革新が実現されることもあります。

事業の磨き上げ


2 経営体制の総点検と社内整備

引き継ぎやすい「仕組み」を整える

後継者がスムーズに事業を運営できるよう、以下のような体制整備が必要です。

  • 役職や権限の明確化と段階的な委譲

  • 各種業務マニュアル・社内規程の整備

  • コミュニケーションの活性化による社内の風通し改善

  • モチベーション向上施策の導入(面談制度・報酬設計など)

経営資源のスリム化

  • 不要な資産や滞留在庫の整理・処分

  • 過剰負債や遊休資産の圧縮

  • キャッシュフローを意識した資金運用の見直し

これらは、後継者が「継ぎたい」と思える事業環境をつくるために不可欠な取組です。


3 財務体質の強化と再生への対応

経営の信頼性を高める財務改善

  • 月次での正確な試算表の作成

  • キャッシュフロー管理の徹底

  • 財務指標(自己資本比率、流動比率など)の改善

財務基盤を整えることで、金融機関や取引先からの信頼も高まり、資金調達の可能性が広がります。

事業再生も選択肢のひとつ

業績が悪化している場合や過剰債務を抱える場合は、早期の事業再生が重要です。

  • 事業の選択と集中による収益改善

  • 不採算部門の撤退や見直し

  • 必要に応じた法的整理・私的整理

事業再生には、弁護士・税理士・中小企業診断士など専門家の関与が不可欠です。承継の前にしっかりと“経営の土台”を立て直すことが、後継者の不安を払拭する第一歩です。

事業の磨き上げ (2)


4 「磨き上げ」は専門家と一緒に進める

事業の磨き上げは、財務・人事・組織・法務など、多方面にわたるため、士業や支援機関のアドバイスを受けながら進めるのが効率的です。

相談先の例

  • 税理士(経営分析、資産整理、株価対策)

  • 中小企業診断士(事業改善、新規事業支援)


まとめ 後継者に“引き継ぎたくなる”会社に

事業承継は、会社の将来を見据えた大切な経営課題です。そして、後継者に「この会社を引き継ぎたい」と思ってもらえる状態にしておくことが、現経営者の最終的な責任です。

取組分野内容
本業強化強みの深化、新たな挑戦、若手の感性活用
経営体制社内制度の整備、権限委譲、資産整理
財務強化月次管理、信用力向上、資金調達力強化
再生対応赤字・債務の解消、法的・私的再生の検討

こうした取り組みは、承継後の企業の持続性と成長可能性を大きく高めてくれます。事業承継は“終わり”ではなく、“第二の創業”です。磨き上げの努力が、次の時代を担う経営者の希望となるはずです。

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飯野明宏税理士
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飯野明宏税理士公認会計士事務所
代表税理士 飯野 明宏

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静岡県富士市横割出身。静岡県立富士高校を卒業後、慶應義塾大学理工学部を経て、早稲田大学大学院会計研究科でMBAを取得。

大学院修了後は、あらた監査法人(PwC Japan有限責任監査法人)や、都内の税理士法人にて勤務。

現在は、地元・富士市・富士宮にて「飯野明宏税理士公認会計士事務所」を運営し、法人税・相続税の両面に強みを活かした専門的なサポートを提供しています。

事業承継の第一歩|自社を「見える化」する重要性と方法

はじめに 事業承継は「見える化」から始まる

事業承継を成功させるためには、まず何よりも自社の現状を正確に把握すること=見える化が不可欠です。
これは「ガイドラインにおけるステップ2」にあたり、承継の基礎となる重要なプロセスです。

自社を見える化する目的は、経営者自身が現状を理解するだけでなく、後継者や関係者に情報を開示し、共通認識を形成することにもあります。情報の開示は正直かつ標準化されている必要があり、信頼のもとで承継が進む土壌を作ります。


1 なぜ「見える化」が事業承継に必要なのか?

事業承継は、多くの「見えにくい問題」を含んでいます。

  • ■財務や資産の全体像が不明確

  • ■経営資源の強み・弱みが曖昧

  • ■後継者候補や関係者との認識のずれ

こうした曖昧さを解消し、“共通の土台”の上で承継プロセスを進めることが「見える化」の狙いです。

事業の見える化


2 見える化①:会社の経営状況を可視化する

まず取り組むべきは、経営状況の見える化です。ここでは財務、事業、経営資源の3つの視点から整理していきます。

2-1. 財務状況の把握

  • ■経営者個人と会社の関係(不動産の名義・借入・連帯保証など)

  • ■決算の適正性

  • ■株式数の確認と株価評価

これらを明確にしておくことで、相続税や贈与税の試算、株式の移転手続きにも備えることができます。

2-2. 事業状況の分析

  • ■部門別の損益構造

  • ■製造・販売プロセスの工程分析

  • ■在庫の評価と棚卸精度の見直し

こうした分析により、自社の「稼ぎ頭」と課題を明確にし、今後の経営改善=磨き上げの方向性が見えてきます。

2-3. 経営資源の棚卸し(知的資産を含む)

  • ■財務諸表に表れない資産(ブランド力、社員のスキル、顧客ネットワークなど)

  • ■ツール活用例:

    • □「事業価値を高める経営レポート」

    • □「知的資産経営報告書」

    • □「経営デザインシート」

特に、なぜ自社が選ばれているのか?という視点から、自社の「価値の源泉」を明確にすることが重要です。

事業の見える化 (2)


3 見える化②:事業承継固有の課題を明らかにする

事業承継には、経営そのものとは別に独自の課題が存在します。

3-1. 後継者の検討

  • ■候補者の有無・意思・能力・適性・年齢

  • ■意欲やリーダーシップの有無

候補がいない場合には、社内外の人材探索やM&Aの検討が必要です。

3-2. 関係者の理解・合意の可能性

  • ■親族内の株主、従業員、取引先などからの異論可能性

  • ■トラブル回避のためのコミュニケーションと合意形成

3-3. 相続課題の整理(親族内承継の場合)

  • ■相続財産の棚卸し

  • ■相続税額の試算

  • ■納税資金の準備や納税方法の検討

これらの課題を初期段階で見える化しておくことで、後のトラブルを未然に防ぐことができます。


まとめ 見える化は事業承継の土台

事業承継を“単なる社長交代”で終わらせないためには、企業の価値を可視化し、関係者と共有することが何より重要です。

  • ■経営状況・資産状況を客観的に把握する

  • ■後継者や関係者に対して誠実に情報を開示する

  • ■課題やリスクを明確にして、対策に着手する

この「見える化」こそが、次のステップである「磨き上げ」や「事業承継計画の策定」の実効性を高める起点となります。

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図解】事業承継の進め方:ガイドラインが示す5つのステップ

はじめに|事業承継は“経営の総合リレー”

事業承継とは、単に「経営者が代わる」ことではありません。現経営者が長年にわたり築いてきた「人」「モノ」「カネ」「情報」「信用」といった経営資源のすべてを次世代に託すプロセスです。

「何から始めればいいのか分からない」と不安を抱える経営者も多いですが、国が示す『事業承継ガイドライン』には、承継の準備から実行までの5つのステップが明確に示されています。

事業承継に向けたステップ


1 ステップ1:事業承継の必要性を認識する

なぜ準備が必要か?

多くの経営者が「家族の問題」として外部に相談せずに抱え込み、結果的に後継者育成の機会を失っています。しかし、事業承継には時間がかかるため、60歳を目安に準備を始めるのが理想とされています。


2 ステップ2:経営状況と課題の“見える化”

事業承継の成功には、自社の現状分析が欠かせません。

見える化すべき項目

  • ■経営資源の棚卸(人材・資金・取引先・設備など)

  • ■財務・会計状況の適正化(会計指針に基づく決算処理)

  • ■自社の強み・弱み、業界内ポジションの確認

  • ■後継者候補の有無、相続・税務リスクの整理


3 ステップ3:事業の“磨き上げ”と改善活動

見える化で判明した課題をもとに、事業を強化・再構築するのがこのステップです。

主な取組内容

  • ■本業の競争力アップ(商品力・顧客基盤・差別化戦略)

  • ■経営体制・内部統制の整備

  • ■後継者と連携し、ベンチャー型事業承継へ挑戦

  • ■業績悪化時には早期の再生プラン実施

中小企業庁の支援策である「経営力向上計画」の活用も、承継前の改善には非常に効果的です。

事業承継 (4)


4 ステップ4:承継計画の策定またはM&A準備

承継の方向性が見えたら、具体的なアクションプランへ落とし込みます。

親族内・従業員承継の場合

  • ■「誰に」「いつ」「何を」「どのように」引き継ぐかを明確に

  • ■現経営者の価値観や理念の共有

  • ■計画書(フォーマットあり)による可視化と関係者の合意形成

社外への引継ぎ(M&A)の場合

  • ■M&A専門家の選定(FA、仲介会社など)

  • ■バリュエーション(企業価値評価)

  • ■マッチング・交渉・デューデリジェンス・契約締結

  • ■クロージング(実行)

どちらのルートでも、計画フェーズでの準備が実行の精度を高めます。


5 ステップ5:事業承継・M&Aの実行とその後

最後のステップは、いよいよ実行段階です。

実行に伴う主なアクション

  • ■経営権・資産の移転(株式、不動産、事業用資産など)

  • ■必要に応じた法的・税務的手続き

  • ■各種契約の更新・登記の変更など

専門家との連携がカギ

  • ■税理士(株価評価、相続税対策)

  • ■弁護士(契約書作成、相続紛争対応)

  • ■司法書士(登記、遺言作成)

実行後は、後継者主導の新たな取り組みによる企業の進化と成長が求められます。


まとめ 事業承継の5ステップで未来を切り開く

ステップ内容
① 必要性の認識準備のスタートライン
② 見える化経営資源・課題の整理
③ 磨き上げ経営体制の強化
④ 承継計画 or M&A準備方向性に応じた実行計画
⑤ 実行経営権の移転と事後の経営改善

事業承継は、長期的な経営計画の一環であり、企業の「第二創業」とも言えます。将来を見据え、1つひとつのステップを丁寧に実行することで、企業の価値を守りながら、さらなる発展につなげることができるでしょう。

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大学院修了後は、あらた監査法人(PwC Japan有限責任監査法人)や、都内の税理士法人にて勤務。

現在は、地元・富士市・富士宮にて「飯野明宏税理士公認会計士事務所」を運営し、法人税・相続税の両面に強みを活かした専門的なサポートを提供しています。