📚 目次
第1章|帳簿に追われた夜——あるフリーランスの現実
「今年こそ、ちゃんと確定申告しようと思ってたんです。でも気づけばまた、期限ギリギリになっていて……」
これは、昨年の2月に初めてご相談を受けた、あるWebデザイナーの方の言葉です。彼はフリーランスとして独立して3年目。仕事は順調に増えていましたが、毎年、申告の時期になると胃が痛くなる思いをしていました。
会計ソフトは使っている。レシートも取ってある。ネットで調べながら入力もしている。——それでも、「これで合ってるのか不安で仕方がない」というのが本音でした。
この話は、特別なものではありません。経理や税務に時間を取られることで、本業に集中できず、精神的にも疲弊してしまう個人事業主は少なくありません。
一方で、こうした悩みに直面しながらも、「税理士に依頼するのはまだ早い気がする」と感じている方も多いようです。
果たして、フリーランスや個人事業主にとって税理士は「本当に必要ない」のでしょうか?
第2章|「税理士はいらない」という考え方が広がった理由
ここ数年、「税理士はいらない」という声を聞く機会が増えました。その背景には、大きく5つの変化があります。
クラウド会計ソフトの進化
フリーやマネーフォワードなどの登場により、帳簿作成や確定申告書の作成が格段に楽になりました。ネット情報の充実
国税庁の公式サイト、SNS、YouTube、オンライン講座——税務情報へのアクセスは、以前よりもずっと身近になっています。無料相談の活用
青色申告会や税務署では、確定申告時期に無料相談を実施しています。事業規模のミニマム化
副業やスモールビジネスが増えたことで、取引件数が少なく、会計処理もシンプルなケースが多くなっています。「お金の知識」を学びたいという自立志向
お金の流れを自分で把握したい、自分で学びたいという気持ちも、税理士不要論を後押ししています。
これらは確かに正しい側面があります。「いらない」と言いたくなる理由も、もっともです。
第3章|分岐点——「やっぱり限界かも」と思った瞬間
話を戻しましょう。
先ほどのWebデザイナーの方は、その年、売上が前年比で1.5倍になりました。案件が増え、外注も使い始め、経費も増えていったのです。
そして申告期限の1週間前、彼はこうつぶやきました。
「取引が複雑になって、もう何が経費で落とせるのか分からない。あと、消費税のことって……これ、どうなるんですか?」
この「分岐点」は、多くの事業主に共通するタイミングです。
- 売上が1,000万円を超えた(2年後から消費税の課税事業者)
- 法人成りを検討している
- 融資を受けたいと考えている
- 税務署から「お尋ね」が届いた
- 本業に集中できなくなってきた
このようなフェーズに入ったとき、「税理士に頼る」ことは、単なる外注ではなく、事業を守るための選択になります。
第4章|「記帳を任せたい」は通じない? 税理士との正しい役割分担
「記帳って全部やってもらえますか?」というご相談をいただくこともあります。
しかし、私たちは基本的に記帳代行は行っていません。なぜなら、経営者ご自身が日々の数字に触れることこそ、経営の感度を養う第一歩だからです。
私たちのサポートは、「自分で記帳できる仕組み」を整えるところにあります。
クラウド会計ソフトの導入・初期設定支援
勘定科目や取引内容に関するアドバイス
記帳の内容に対するレビュー・助言
確定申告や決算のチェックおよび作成支援
経営者の意思決定に必要なのは、記帳を「やってもらう」ことではなく、「理解する」ことです。そのためにこそ、私たちは伴走します。
第5章|税理士に依頼することで得られる“自由”
税理士に依頼することで得られるのは、書類の正確さや節税だけではありません。
それは、「経営者としての自由」です。
- 記帳の正確性と、確認ができる安心感
- 「これで大丈夫?」という不安の軽減
- 融資や調査、節税に関する的確なアドバイス
- 経営に集中できる時間と精神的ゆとり
「専門家と一緒に数字を見る」というだけで、驚くほど決算書が“自分の言葉”になっていきます。
第6章|それでも、自分でやりたい方へ——自力で対応する選択肢
オンライン講座や教材で税務知識を学ぶ
クラウド会計ソフトを最大限活用する
税務署や自治体の無料相談窓口を利用する
国税庁や専門メディアでの情報収集
経理を自分で行うという選択は、立派なスタンスです。ただし、「今は大丈夫」でも、「将来もずっと大丈夫か?」は別問題。だからこそ、次の章は重要です。
第7章|税理士は“いつか”ではなく“必要になったときにすぐ相談できる存在”に
税理士に依頼するタイミングを見極めるポイントは、以下のような“兆し”が出たときです。
- 売上や取引量が増えてきた
- 税金が増え始め、申告に不安がある
- 融資・法人化・人材雇用を考え始めた
- 本業に集中する時間が減ってきた
そのときに初めて税理士を探すのではなく、「いざというとき、すぐに相談できる関係性」を持っておくことが、経営の安心につながります。
まとめ|「いらない」は“今”だけかもしれない。未来の選択肢を準備しよう
税理士は「贅沢品」でも「保険」でもありません。
経営の視界をクリアにする、“必要なときに頼れる味方”です。
税理士が必要かどうかは、事業のフェーズによって変わります。今は必要なくても、将来のために一度、話をしてみる。それだけでも、新しい視点が得られるかもしれません。