「安い税理士」について考える – 税理士選びの本質とは

2025年5月29日
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2025年5月29日 管理人

はじめに 税理士選びにおける「価格」の位置づけ

「税理士報酬を抑えたい」とお考えの方が多いと思います。確かに、事業運営において税理士報酬は決して小さくない負担となるため、コストを意識されるのは当然のことです。

しかし、税理士業界に長年身を置く立場から申し上げると、「安さ」だけを基準に税理士を選ぶことには、慎重になっていただきたいというのが率直な想いです。

今回は、安い税理士のメリット・デメリットを客観的に分析し、真に価値のある税理士選びについて考察します。

1 「安い税理士」が存在する理由

まず、なぜ相場よりも安い報酬で税理士サービスが提供されるのか、その背景を理解することが重要です。

1-1 効率化による原価削減

業務のIT化・自動化
会計ソフトの活用やクラウド化により、人的コストを大幅に削減している事務所が増えています。従来手作業で行っていた業務を自動化することで、より多くの顧客に対応できる体制を構築しています。

オンライン対応の徹底
事務所の固定費を抑制し、移動時間を削減することで、コストパフォーマンスを向上させています。特にコロナ禍以降、この傾向は顕著になりました。

1-2 事業戦略としての価格設定

実績構築期の戦略
創業間もない税理士が経験を積むため、意図的に低価格で市場参入するケースがあります。これは決して能力不足を意味するものではなく、むしろ熱意と向上心の表れと捉えることもできます。

サービス内容の限定化
基本業務に特化し、付加価値サービスを削ることで低価格を実現している事務所もあります。

これらの理由による低価格サービスは、必ずしも品質が劣るわけではありません。重要なのは、その価格設定の背景を理解し、自社のニーズと合致するかを見極めることです。

2 安い税理士を選ぶメリット

2-1 直接的なコスト削減効果

特に創業期や資金繰りが厳しい時期において、税理士報酬の削減は経営に直接的な好影響をもたらします。限られた資源を他の投資に振り向けることができ、事業の成長加速に寄与する可能性があります。

2-2 必要最小限のサービス選択

オプション制を活用することで、本当に必要な業務のみを依頼できる柔軟性があります。

  • ■税務申告のみの依頼(月額1万円程度から)
  • ■決算業務に特化したサービス
  • ■休眠会社の維持管理業務

2-3 特定の状況との適合性

以下のような企業には、安価なサービスが適している場合があります:

  • ■会社設立直後で取引が少ない企業
  • ■社内に経理経験者がいる企業
  • ■シンプルな事業構造で複雑な税務処理が不要な企業

3 安い税理士を選ぶリスクとデメリット

一方で、価格重視の選択には以下のようなリスクが存在することも事実です。

3-1 サービス範囲の制限

節税アドバイスの不足
基本的な申告業務に留まり、戦略的な節税提案が期待できない場合があります。結果として、税理士報酬以上の税負担増加を招く可能性があります。

経営相談機能の欠如
帳簿の整理や申告書作成といった定型業務に特化し、経営の悩みや課題について相談できない場合があります。

3-2 経験・専門性に関するリスク

実務経験の不足
新人税理士や経験の浅いスタッフが担当となる可能性があり、税務調査対応や複雑な案件への対処能力に不安が残る場合があります。

専門知識の限界
特定の業界や特殊な税務処理について、十分な知識や経験を持たない可能性があります。

3-3 オプション料金による予想外のコスト増

基本料金は安くても、以下の業務がオプション扱いとなり、結果的に割高になるケースがあります:

  • ■給与計算・年末調整
  • ■消費税申告
  • ■税務調査立会い
  • ■法定調書作成

3-4 サポート体制の制限

対応頻度の制限
訪問回数や相談回数に制限があり、必要な時に適切なサポートを受けられない可能性があります。

4 失敗しないための税理士選択基準

4-1 契約前の重要確認事項

サービス内容と料金体系の詳細確認
基本料金に含まれる業務内容と、オプションとなる業務を明確に区分し、年間総額で比較検討することが重要です。

税理士資格の確認
税務代理、税務書類作成、税務相談は税理士の独占業務です。必ず税理士会への登録を確認しましょう。

4-2 相性とコミュニケーション

対話の質
あなたの話を真剣に聞き、課題を的確に把握してくれるかを見極めることが重要です。

説明能力
複雑な税務処理や法律について、分かりやすく説明できる能力があるかを確認しましょう。

4-3 継続的なサポート体制

担当者の継続性
長期的な関係構築が可能な体制があるかを確認します。

緊急時対応
担当者不在時のバックアップ体制について事前に確認しておくことが重要です。

5 税理士との適切な関係構築

5-1 パートナーとしての税理士

税理士は単なる税務申告の代行者ではなく、企業の成長を支える重要なビジネスパートナーです。短期的なコスト削減よりも、長期的な価値創造の観点から関係を構築することが重要です。

5-2 成長段階に応じたサービスの変化

創業期
最低限の税務申告業務に特化し、コストを抑制することも合理的な選択です。

成長期
事業が拡大するにつれて、節税対策や経営相談など、より包括的なサービスが必要になります。

成熟期
事業承継や組織再編など、高度な専門知識が求められる場面が増加します。

税理士の選び方について >

まとめ 真の「コストパフォーマンス」とは

税理士選びにおける真のコストパフォーマンスは、単純な料金の安さではなく、投じたコストに対してどれだけの価値を得られるかで判断すべきです。

適正な報酬を支払うことで得られる以下の価値を考慮に入れることが重要です:

  • ■節税効果による実質的なコスト削減
  • ■経営アドバイスによる事業成長の加速
  • ■税務リスクの回避による安心感
  • ■専門知識の活用による時間の節約

私たちプロフェッショナルとしては、クライアント企業の成功こそが最大の使命であり、そのために必要な投資と捉えていただければと考えております。

「安い税理士」を否定するものではありませんが、皆様の事業の成功と発展のためには、価格と価値のバランスを慎重に検討していただくことをお勧めいたします。

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飯野明宏税理士
この記事を書いた税理士

飯野明宏税理士公認会計士事務所
代表税理士 飯野 明宏

東海税理士会富士支部所属 登録番号:127320号

公認会計士協会東海会 登録番号:31555号

静岡県富士市横割出身。静岡県立富士高校を卒業後、慶應義塾大学理工学部を経て、早稲田大学大学院会計研究科でMBAを取得。

大学院修了後は、あらた監査法人(PwC Japan有限責任監査法人)や、都内の税理士法人にて勤務。

現在は、地元・富士市・富士宮にて「飯野明宏税理士公認会計士事務所」を運営し、法人税・相続税の両面に強みを活かした専門的なサポートを提供しています。

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