こんにちは。富士市・富士宮の税理士、飯野明宏です。
親が老人ホームに入居していて、もし相続が発生したら「実家の土地にかかる相続税はどうなるの?」と心配になったことはありませんか?
「小規模宅地等の特例」という制度を使えば、相続税を大幅に減らせる可能性があります。今回は、老人ホームに入居中の場合でもこの特例が使えるのか、どんな条件が必要なのかを説明します。
1. 小規模宅地等の特例って何?
小規模宅地等の特例とは、亡くなった方が住んでいた家の土地や、事業で使っていた土地を相続するときに、土地の評価額を大幅に下げてくれる制度です。小規模宅地の特例の概要については、次のコラムをご覧ください。
2. 老人ホームに入居していても特例は使える?
以前は「老人ホームで亡くなった場合、元の家は空き家だから特例は使えない」という厳しい扱いでした。でも、これはあまりにも理不尽だということで、平成26年から制度が改正されました。
現在では、一定の条件を満たせば、老人ホームに入居していても特例を受けることができます。
情報元:国税庁 老人ホームへの入所により空家となっていた建物の敷地についての小規模宅地等の特例
3. 特例を使うための主な条件
老人ホームに入居していた場合に特例を使うには、主に次の2つの条件をクリアする必要があります。
条件その1:介護が必要で老人ホームに入居したこと
- ■要介護認定や要支援認定を受けていることが必要です
- ■基本チェックリスト※や障害者支援区分の認定でもOKです
- ■判定のタイミングは亡くなる直前なので、施設に入る時点で認定を受けていなくても大丈夫です
- ■相続後に認定が判明した場合でも、生前から認定を受けていたとみなされる場合があります
※基本チェックリストとは、65歳以上の高齢者が自分の生活や健康状態を振り返り、心身の機能で衰えているところがないかどうかをチェックするためのツールです
条件その2:自宅を老人ホーム入居後に貸したりしていないこと
- ■老人ホームに入居している間に、元の自宅を誰かに貸して家賃を取っていた場合は特例が使えません
- ■親族に無償で貸した場合も「貸している」とみなされるので注意が必要です
- ■基本的には、老人ホームに入った時と同じ空き家の状態を保っている必要があります
4. 誰が相続すれば特例が使える?
特例を使えるのは、原則として次のような人です:
- ■配偶者:亡くなった方の妻や夫
- ■同居していた親族:老人ホームに入る前に一緒に住んでいた家族
「同居」の判定は、老人ホームに入る直前に同居していたかどうかで決まります。
また、「家なき子」の特例もあります。これは、別居していて賃貸住宅に住んでいる親族が相続する場合に使える制度です。ただし、同居している親族がいる場合は使えません。
5. その他のケース
配偶者が自宅に住み続けている場合
夫婦のうち一方が老人ホームに入居し、もう一方が自宅に住み続けている場合、配偶者が相続すれば特例が使えます。
夫婦で老人ホームに入居している場合
ご夫婦揃って老人ホームに入居し、自宅が空いている場合でも、配偶者が相続すれば特例が適用できます。
老人ホーム間で転居した場合
複数の老人ホームを転居した場合でも、すべての施設が適格な施設であれば、最初の老人ホームに入る前の自宅について特例が使えます。
6. 注意が必要なポイント
無認可の老人ホームはNG
都道府県に届出をしていない無認可の老人ホームに入居していた場合は、特例を受けられません。入居する際は、きちんと認可を受けた施設かどうか確認しましょう。
「同居」の定義
住民票の住所が同じというだけでなく、実際に一緒に暮らしていたことが重要です。住民票だけ移していても、実際に住んでいなければ同居とはみなされません。
7. 必要な書類について
特例を受けるためには、様々な書類を準備する必要があります。
基本的に必要な書類
- ■遺産分割協議書または遺言書の写し
- ■被相続人の住民票の写し
- ■印鑑証明書(遺産分割協議書に押印した全相続人分)
- ■戸籍謄本(被相続人と相続人全員分)
老人ホーム入居の場合に追加で必要な書類
- ■被相続人の戸籍の附票の写し
- ■要介護認定証や要支援認定証の写し(介護保険被保険証や障がい者福祉サービス受給証でも可)
- ■施設入居時の契約書の写し
- ■施設の許認可に関する書類の写し
「家なき子」の特例を使う場合の追加書類
- ■戸籍の附票の写し
- ■賃貸借契約書または登記簿謄本
8. まとめ:専門家に相談することをおすすめします
老人ホーム入居中の親の自宅について、小規模宅地等の特例は非常に有効な相続税対策となります。しかし、適用には様々な条件があり、ケースによって必要書類も変わってきます。
相続税は専門性が高い分野ですし、老人ホームが絡むとさらに判断が複雑になります。「使えると思っていた特例が実は使えなかった」「知らずに特例を見落として、本来よりも多くの相続税を払ってしまった」ということがないよう、是非ご相談ください。