【小規模宅地の特例】家なき子特例とは?

2025年6月3日 管理人

こんにちは。富士市・富士宮の税理士、飯野明宏です。

相続で家を引き継ぐとき、税金が高くなって困ることがあります。「小規模宅地等の特例」という制度を使えば、土地にかかる相続税を最大80%減らすことができます。

小規模宅地等の特例について >

この特例には「家なき子」という聞き慣れない言葉が出てきますが、これは税理士たちがよく使う専門用語です。正式な名前ではありませんが、とても重要な制度です。今回はこの「家なき子」について説明していきます。

1. そもそも「家なき子」って誰のこと?

「家なき子」とは、亡くなった方(父や母)と一緒に住んでいなかった家族のことを指します。ただし、別々に住んでいただけでは「家なき子」にはなりません。


情報元:リンク 国税庁 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)

家なき子特例が適用するには、次の要件を満たす必要があります。

① 被相続人(亡くなった方)に配偶者がいないこと

② 同居の相続人(相続放棄した人も含む)がいないこと

③ 被相続人の親族であること

④ 相続開始前3年間に、特定の家屋に住んでいないこと

⑤ 今住んでいる家を過去に自分が所有していたことがないこと

⑥ 申告期限までその宅地を保有し続けること

 

以下で、それぞれの要件について詳しく説明します。

① 被相続人(亡くなった方)に配偶者がいないこと

配偶者(夫や妻)がいる場合は、配偶者が優先されます。この要件があることから、家なき子特例は、基本的に二次相続のときに適用を検討します。

② 同居の相続人(相続放棄した人も含む)がいないこと

同居している家族がいる場合は、その人が優先されます。①とあわせて検討すると、被相続人に同居している相続人が全くいないこと、が要件となります。

③ 被相続人の親族であること

相続人だけでなく、孫でも親族であれば適用を受けることができます。

④ 相続開始前3年間に、特定の家屋に住んでいないこと

自分の家や親族の家ではなく、他人から借りた家に住んでいる必要があります。自分の家や親族の家とは、その相続人、その相続人の配偶者、その相続人の3親等内の親族又はその相続人と特別の関係のある法人が所有する家屋に住んでいないことをいいます。

⑤ 今住んでいる家を過去に自分が所有していたことがないこと

昔自分が住んでいた家を借りて住んでいる場合は対象外です。

⑥ 申告期限までその宅地を保有し続けること

相続税の申告期限まで売却や贈与をしてはいけません。申告期限までの間に、対象の土地を売却した場合は、家なき子特例の対象ではなくなります。

 

以上から、亡くなった方が一人暮らしで、その子供等が、長期間、賃貸住宅に住んでいる場合に、この特例が使える可能性があるということになります。

2. 平成30年の法改正で何が変わった?

平成30年の改正により、家なき子特例には大きな変更がありました。

具体的には、次のとおりです。

上述の要件『④相続開始前3年間に特定の家屋に住んでいないこと』の特定の家屋に、相続人の3親等以内の親族の持ち家、相続人本人と関係のある一定の法人の持ち家が追加されました。また、『⑤今住んでいる家を過去に自分が所有していたことがないこと』も追加されました。

昔はこんなことができた

  • ■自分の家をいったん親に売って、その家を借りて住むことで「賃貸住宅」扱いにする
  • ■親族の家を借りて住むことで条件をクリアする

しかし、新しく追加された要件により「形だけの賃貸住宅」は認められなくなりました。現在は、完全に他人から借りている賃貸住宅でなければ、この特例は使えません。

具体的にダメなケース

  • ■自分が昔住んでいた家を借りて住んでいる
  • ■親族が所有する家を借りて住んでいる
  • ■名義だけ変更して実質的に自分の家

3. 申請に必要な書類は?

「家なき子」特例を使うときは、以下の書類を準備する必要があります。

基本的な必要書類

①被相続人の戸籍謄本または法定相続情報一覧図の写し

  • ■被相続人に配偶者や同居親族がいないことを証明
  • ■相続開始日から10日以降に作成されたもの

②自宅を取得する人の戸籍の附票の写し

  • ■過去の住所変遷がわかる書類
  • ■相続開始前3年以内における住所を証明

③遺言書の写しまたは遺産分割協議書の写し

  • ■特例を申請する宅地を申請者が相続していることを証明

④相続人全員の印鑑証明書

  • ■遺産分割協議書に押印したもの

⑤登記事項証明書や賃貸借契約書の写し

  • ■相続開始前3年以内に居住していた家屋が持ち家でないことを証明
  • ■賃貸借契約書(今住んでいる家が借りた家であることの証明)
  • ■住んでいる物件の登記簿謄本(誰が所有者かを確認するため)

これらの書類をきちんと準備して、相続税の申告書と一緒に提出することが大切です。

賃貸住宅に住む息子 (2)

4. 絶対に忘れてはいけない申告のこと

重要なポイント この特例を使って相続税が0円になったとしても、必ず税務署に申告しなければなりません。

申告を忘れるとどうなる?

  • ■特例が使えなくなる
  • ■本来なら0円だった相続税が、多額になる可能性がある

税務署の調査について 税務署は申告内容をチェックすることがあります。特に「家なき子」特例については、本当に賃貸住宅に住んでいたかどうかを詳しく調べることがあります。そのため、契約書などの書類はきちんと保管しておくことが重要です。

5. まとめ:迷ったら専門家に相談を

「家なき子」特例は、使えれば大きな節税効果がある制度ですが、要件がとても複雑です。

この特例のポイント

  • ■亡くなった方が一人暮らしの場合に検討する
  • ■3年以上、他人から借りた家に住んでいることが必要
  • ■平成30年の改正で、適用条件が厳しくなった
  • ■相続税が0円でも申告は必須

こんな場合は専門家に相談を

  • ■自分のケースで特例が使えるかわからない
  • ■必要な書類が揃っているか不安
  • ■税務署の調査が心配

この特例を正しく理解して活用すれば、相続税の負担を大幅に軽減できる可能性があります。ぜひ参考にしてみてください。

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飯野明宏税理士
この記事を書いた税理士

飯野明宏税理士公認会計士事務所
代表税理士 飯野 明宏

東海税理士会富士支部所属 登録番号:127320号

公認会計士協会東海会 登録番号:31555号

静岡県富士市横割出身。静岡県立富士高校を卒業後、慶應義塾大学理工学部を経て、早稲田大学大学院会計研究科でMBAを取得。

大学院修了後は、あらた監査法人(PwC Japan有限責任監査法人)や、都内の税理士法人にて勤務。

現在は、地元・富士市・富士宮にて「飯野明宏税理士公認会計士事務所」を運営し、法人税・相続税の両面に強みを活かした専門的なサポートを提供しています。

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