棚卸資産の評価方法 あなたの会社に合った方法は?

2025年5月31日
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2025年5月31日 管理人

こんにちは。富士市・富士宮の税理士、飯野明宏です。

商品を取り扱うあらゆる企業にとって、在庫管理は欠かせない業務の一つです。そして、企業の財産ともいえる棚卸資産を適切に評価することは、正確な利益を計算し、適切な納税を行う上で非常に重要です。

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棚卸資産とは、会社が保有する未売却の商品や製品、製造途中の仕掛品、未使用の原材料や消耗品など、財産価値のある物品を指します。決算時には、これらの棚卸資産を数え(棚卸)、その評価額を決定する必要があります。この評価額が売上原価の計算に影響するため、正確な経営状況を把握する上で棚卸資産の計算方法は非常に重要となります。

本記事では、棚卸資産の計算方法について詳しく解説します。

棚卸資産とは?取得価額・評価方法の基本・計算方法


1 棚卸資産評価方法の全体像

1-1 原価法と低価法

棚卸資産の評価方法は、大きく分けて「原価法」「低価法」の2つがあります。

  • ■原価法:商品の取得原価や製造原価を基に評価額を算出する方法です
  • ■低価法:原価法で算出した評価額と期末時点の時価を比較し、いずれか低い方の金額を採用する方法です

税務上、原価法にはいくつかの計算方法が認められています。以下でそれぞれの方法を具体的に見ていきましょう。


2 原価法に含まれる計算方法

原価法には、現在、以下の6つの計算方法が税務上認められています。

2-1 個別法

概要:商品一つひとつを区別し、それぞれの仕入価格や製造原価に基づいて評価する方法です。

特徴:

  • 商品ごとに在庫を細かく管理できるため、商品の特定や品質管理がしやすくなります
  • 在庫品の実際の仕入価格や製造原価がそのまま評価額に反映されるため、最も正確な原価把握が可能です

適したケース: 美術品、宝石、不動産など、一つあたりの価格が高く、個別に管理しやすい商品に適しています。

デメリット: 取り扱う商品の種類や数が多い場合、管理が非常に煩雑になり、効率的な管理には在庫管理システムの導入や高い管理スキルが必要となるため、運用コストが高くなる懸念があります。

2-2 先入先出法(FIFO:First-In First-Out)

概要: 「先に仕入れた商品から先に販売される」と仮定して、期末に残っている在庫は、最も新しい時期に仕入れたものと見なして評価する方法です。

特徴:

  • 実際の物流現場でも、品質劣化を防ぐために古い商品から出荷することが多く、実態に近い棚卸資産の評価が可能です
  • 賞味期限や使用期限が短い商品(食品や医薬品)を扱う場合に不可欠な手法とされています
  • ■商品の廃棄や返品のリスクを低減することができます
  • 在庫の回転率が高くなり、在庫コスト・在庫リスクの低減にもつながります

適したケース: 食品、医薬品、消費期限のある商品、品質劣化しやすい電子部品など。

先入先出法

2-3 総平均法

概要: 一定期間(通常1会計期間)における、期首棚卸資産の取得価額と期中に行った仕入れの取得価額の総額を、総数量で割って平均単価を算出し、その単価で期末棚卸資産を評価する方法です。

計算例:

  • 期首棚卸資産:取得価格総額20万円(15個)
  • 期中仕入れ:取得価格総額100万円(90個)
  • 平均単価:(20万円+100万円)÷(15個+90個)=11,429円/個
  • 期末在庫20個の評価額:20個×11,429円=228,580円

特徴:

  • 物価変動の影響を受けにくいという側面があります
  • 計算は比較的簡単です

デメリット:

  • 期末になるまで単価が確定しないため、期間中の正確な原価をタイムリーに把握するのが難しい場合があります

総平均法

2-4 移動平均法

概要: 商品を仕入れる都度、これまでの棚卸資産の平均単価と今回の仕入れ価格を基に、新しい平均単価を計算し、その都度単価を更新していく方法です。期末棚卸資産は、最終的に計算された平均単価で評価します。

計算式: (仕入れ前の棚卸資産残高金額 + 今回の仕入れ金額) ÷ (仕入れ前の棚卸資産数量 + 今回の仕入れ数量)

特徴:

  • 仕入れる都度、タイムリーに正確な平均原価を把握できるメリットがあります
  • 移動平均期間を調整することで、短期的な需給変動だけでなく長期的な価格変動にも対応できます

デメリット:

  • 仕入れの都度計算が必要となるため、計算が煩雑になります
  • システムを導入していない企業での運用は難しいとされています
  • 過去の単価を参考にするため、新しい単価が相場から乖離する可能性があります

2-5 売価還元法

概要: 期末棚卸資産の販売価額の合計額に、あらかじめ設定した原価率を掛けて評価する方法です。

特徴:

  • 商品の販売価格から原価を求められるため、取り扱い商品数が非常に多い小売業などで用いられます
  • 計算が非常に簡単である点がメリットです
  • 市場の変化やトレンドの移り変わりによる需要変動にも柔軟に対応し、競争力のある価格設定も可能になる場合があります

計算方法: 原価率は(期首棚卸価格+期中仕入価格)÷(期末棚卸資産販売額+期中棚卸資産販売額)などで求められます。

デメリット:

  • 適切な売価還元率の設定が重要です
  • 率が高すぎると利益率が低下し、経営に悪影響を及ぼす可能性もあります

2-6 最終仕入原価法

概要: 会計期間の最後に仕入れた商品の単価を基準として、期末棚卸資産を評価する方法です。

特徴:

  • 仕入れ価格の変動に柔軟に対応でき、需要の変動があった際にも迅速に適応することができます
  • 計算が簡単であるため、中小企業でよく用いられる方法です

デメリット:

  • 在庫が長期間保管される場合、仕入れ価格の変動によって在庫の原価が大きく変化するリスクがあります
  • 仕入価格が大きく変わる商品では正確な原価が計算できない恐れがあります

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3 低価法について

3-1 低価法の概要

低価法は、原価法で算出した評価額と期末時点の時価を比較し、いずれか低い方の金額を採用する方法です。

特徴:

  • 商品の価格変動をタイムリーに反映させることができます
  • 時価が取得原価よりも下落した場合に適用し、その差額を評価損として計上することで、利益を低く抑え、節税効果を得られる点がメリットです

適用: 上場企業では低価法は強制適用となっています。

注意点: 翌期首には前期に計上した評価損を戻し入れる処理(洗替低価法)が必要です。


4 適切な評価方法の選択と税務署への届け出

4-1 評価方法の選択

棚卸資産の計算方法は、企業の業種や取り扱う商品の特性によって最適なものが異なります。自社の事業形態や実情に合った評価方法を選択することは、より正確な決算を行い、適切な経営判断を行う上で非常に大切です。

4-2 税務署への届け出

特定の棚卸評価方法を適用したい場合、事前に管轄の税務署へ「棚卸資産の評価方法の届出書」を提出する必要があります。

重要なポイント:

  • この届け出がない場合は、原価法の「最終仕入原価法」が自動的に適用されるため注意が必要です
  • 届け出は、法人設立時または新たに収益事業を開始した事業年度の確定申告書の提出期限までに行うのが一般的です

4-3 評価方法の変更

一度選択した評価方法を変更したい場合は、変更しようとする事業年度開始の前日までに「変更承認申請書」を提出し、税務署長の承認を得る必要があります。

注意点: 一度採用した評価方法を頻繁に変更することによる不当な利益操作を防ぐため、原則として現在の評価方法を採用してから3年程度経過していないと変更が認められにくい場合があります。


5 業種・商品別の推奨評価方法

5-1 商品の特性に応じた選択

  • 高額商品(美術品、宝石、不動産等)個別法
  • ■品質劣化しやすい商品(食品、医薬品等)先入先出法
  • ■一般的な商品で計算を簡単にしたい場合総平均法最終仕入原価法
  • ■仕入れの都度、正確な原価を把握したい場合移動平均法(システムが必要)
  • ■商品数が多い小売業売価還元法
  • ■時価下落を評価に反映したい場合低価法

5-2 システム導入の検討

移動平均法や先入先出法など、計算が複雑な評価方法を採用する場合は、在庫管理システムの導入を検討することが重要です。


6 まとめ

棚卸資産の計算方法は、企業の財務状況や経営判断に大きく影響する重要な要素です。原価法と低価法、そして原価法の中にも様々な計算方法があり、それぞれに特徴やメリット・デメリットがあります。

選択のポイント:

  • ■自社の事業規模や商品の特性を理解する
  • ■管理コストと正確性のバランスを考慮する
  • ■税務上の届け出を忘れずに行う
  • ■必要に応じてシステム導入を検討する

自社の事業規模や商品の特性などを理解した上で、最適な棚卸資産の計算方法を選択し、適切に管理・評価を行うことが、正確な売上原価の把握、適正な在庫状況の見極め、そして消失や不正の防止につながります。

どの方法が自社に最適なのか判断が難しい場合や、在庫管理業務に課題を感じている場合は、物流や在庫管理の専門家、あるいは税理士などの専門家に相談することも有効な方法です。

適切な棚卸資産の評価方法を選択し、正確な在庫管理を行うことで、企業の健全な経営基盤を築いていきましょう。

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飯野明宏税理士
この記事を書いた税理士

飯野明宏税理士公認会計士事務所
代表税理士 飯野 明宏

東海税理士会富士支部所属 登録番号:127320号

公認会計士協会東海会 登録番号:31555号

静岡県富士市横割出身。静岡県立富士高校を卒業後、慶應義塾大学理工学部を経て、早稲田大学大学院会計研究科でMBAを取得。

大学院修了後は、あらた監査法人(PwC Japan有限責任監査法人)や、都内の税理士法人にて勤務。

現在は、地元・富士市・富士宮にて「飯野明宏税理士公認会計士事務所」を運営し、法人税・相続税の両面に強みを活かした専門的なサポートを提供しています。

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