インフルエンサーの衣装代は経費になる?判断基準と注意点

2025年5月29日
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2025年5月29日 管理人

1 衣装代の経費計上をめぐる現状

インフルエンサーやYouTuber、個人事業主として活動されている方からの、「活動のために購入した衣装代は経費として計上できるのでしょうか?」というご相談を想定してみました。

デジタル時代において、「見た目」が直接的に収益に影響する職業が増加している中、衣装代の税務処理は多くの方にとって重要な関心事となっています。しかし、この問題は単純な答えがなく、個別の事情を慎重に検討する必要があります。

2 衣装代経費計上の基本原則

2-1 「事業関連性」が全ての基準

衣装代が経費として認められるかどうかの最も重要な判断基準は、「事業との直接的な関連性」です。税法上、必要経費として認められるためには、以下の要件を満たす必要があります:

  • ■事業の遂行に直接必要な支出であること
  • ■収益を得るための合理的な支出であること
  • ■支出金額が事業規模に見合っていること

2-2 「業務専用性」の重要性

衣装代の経費計上において、もう一つの重要な観点が「業務専用性」です。プライベートでの使用可能性が低いほど、経費として認められる可能性が高くなります。

3 経費として認められやすいケース

3-1 明確に業務専用と判断される衣装

撮影・イベント専用の特殊衣装

  • ■コスプレ衣装やキャラクター衣装
  • ■特定のイベント名がプリントされたアイテム
  • ■舞台衣装や特殊なドレス
  • ■企業ロゴ入りのユニフォーム

職業上必要不可欠な専門衣装

  • ■作業着や安全装備
  • ■サロン用エプロンや制服
  • ■スポーツインストラクター用のウェア

3-2 収益との直接的関連性が明確なケース

動画・写真コンテンツ制作用

  • ■商品レビュー動画での着用衣装
  • ■ファッション系コンテンツでの衣装
  • ■ブランドタイアップでの指定衣装

イベント・出演時の衣装

  • ■講演会やセミナーでの着用衣装
  • ■展示会やイベント出演時の衣装
  • ■テレビ・ラジオ出演時の衣装

3-3 付随する美容関連費用

プロによる施術

  • ■撮影用ヘアメイク代
  • ■イベント出演時のヘアセット代
  • ■特殊メイク代

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4 経費として認められにくいケース

4-1 汎用性の高い衣服

日常着として使用可能なアイテム

  • ■一般的なスーツやビジネスウェア
  • ■カジュアルウェア全般
  • ■普段着として着用可能なファッションアイテム

美容・身だしなみ関連

  • ■日常使いの化粧品
  • ■一般的なヘアケア用品
  • ■基本的な美容院代

4-2 私的利用との区分が困難なケース

事業とプライベートの境界が曖昧な支出については、税務署からの指摘を受けるリスクが高くなります。特に以下のような場合は注意が必要です:

  • ■購入動機が複合的(仕事とプライベート両方の目的)
  • ■使用頻度において私的利用の割合が高い
  • ■事業上の必要性を客観的に証明することが困難

5 家事按分による処理方法

5-1 家事按分の基本的な考え方

事業とプライベートの両方で使用する可能性がある衣装については、使用割合に応じて「家事按分」を行うことができます。ただし、この処理には、一般的に、以下の条件があるものと考えられます。

按分基準の合理性

  • ■客観的で説明可能な按分基準の設定
  • ■継続的な基準の適用
  • ■記録の保持と説明責任

5-2 按分基準の設定例

使用頻度による按分

  • ■事業での使用日数÷総使用日数
  • ■撮影・イベント回数による算定

時間による按分

  • ■事業での着用時間÷総着用時間

ただし、按分処理は税務調査時に詳細な説明が求められるため、明確な根拠と記録の保持が必要不可欠です。

6 適切な勘定科目の選択

6-1 推奨される勘定科目

消耗品費 一般的で適切な勘定科目です。衣装は通常、使用により価値が減少する消耗品としての性質を持つためです。

販売促進費 マーケティング活動やブランディングの一環として購入した衣装については、この科目が適している場合があります。

6-2 避けるべき勘定科目

雑費の多用 雑費の金額が大きくなると、決算書の透明性に疑問を持たれる可能性があります。可能な限り具体的な科目を使用することをお勧めします。

7 税務調査対策と証拠保全

7-1 必要な証拠書類の整備

基本的な証拠書類

  • ■領収書・レシートの原本保管
  • ■購入時の状況を示す写真
  • ■使用状況を記録した資料
  • ■収益との関連性を示す資料

補強資料の準備

  • ■撮影・イベントのスケジュール
  • ■実際の使用場面の写真・動画
  • ■クライアントとの契約書や指示書

7-2 記録保持について

領収書への記録 領収書の裏面に以下の情報を記載することをお勧めします:

  • ■購入目的・使用予定
  • ■関連するプロジェクト名
  • ■使用予定日・イベント名
  • ■購入の必要性

デジタル記録の活用

  • ■購入品の写真撮影
  • ■使用場面の記録
  • ■収益との関連性を示すデータの保存

7-3 税務調査での対応準備

税務調査において衣装代について質問された場合、以下の点を明確に説明できるよう準備しておくことが重要です。

  • ■購入の事業上の必要性
  • ■収益との直接的関連性
  • ■プライベート使用との区分方法
  • ■按分基準の合理性(該当する場合)

8 業種別の特殊事情

8-1 インフルエンサー特有の論点

コンテンツ制作との関連性

  • ■ファッション系インフルエンサーの衣装代
  • ■商品紹介動画での着用衣装
  • ■ブランドコラボレーション時の衣装

フォロワー数・収益規模との相関性 衣装代の金額が収益規模に見合っているかどうかも重要な判断要素となります。

8-2 YouTuber・動画クリエイター

企画・演出上の必要性

  • ■キャラクター設定に応じた衣装
  • ■特定の企画・シリーズでの統一衣装
  • ■教育系コンテンツでの専門衣装

8-3 その他の職業

モデル・タレント

  • ■撮影・オーディション用衣装
  • ■宣材写真撮影用衣装

講師・コンサルタント

  • ■セミナー・講演会用の衣装
  • ■クライアント訪問時の衣装

アイドル衣装

9 税務リスクの回避策

9-1 保守的な判断の重要性

衣装代の経費計上については、グレーゾーンが存在することを認識し、以下の原則に従うことをお勧めします:

明確性の原則

  • ■事業関連性が明確に説明できるもののみ計上
  • ■疑義がある場合は保守的に判断

継続性の原則

  • ■一度決定した処理方法の継続的適用
  • ■変更する場合の合理的理由の準備

10 まとめと今後

10-1 判断の基本方針

衣装代の経費計上については、以下の基本方針に従って判断することが重要です:

  • ■事業関連性の明確化: 購入・使用の事業上の必要性を明確に説明できること
  • ■適切な証拠保全: 税務調査に耐え得る証拠書類の整備
  • ■保守的な判断: 疑義がある場合は経費計上を見送る勇気
  • ■専門家の活用: 判断に迷う場合は税理士への相談

10-2 デジタル時代の税務対応

SNSやデジタル媒体を活用したビジネスが拡大する中、従来の税務処理の枠組みでは判断が困難なケースが増加しています。このような環境変化に対応するため、以下の点が重要になります:

新しいビジネスモデルへの理解

  • ■インフルエンサー経済の特殊性
  • ■デジタルコンテンツ制作の実態
  • ■収益構造の多様化

柔軟な税務対応

  • ■個別事情に応じた判断
  • ■業界慣行の考慮
  • ■合理的な処理方法の模索

10-3 最終的なアドバイス

衣装代の経費計上は、単純な税務処理の問題を超えて、事業の本質的な活動との関連性を問う重要な論点です。形式的な処理に留まらず、以下の視点を持って取り組むことをお勧めします。

事業の実態に即した処理

  • ■表面的な処理ではなく、事業の実態を反映した処理
  • ■収益構造と支出構造の整合性
  • ■長期的な事業発展を見据えた判断

透明性の確保

  • ■第三者にも理解できる明確な基準
  • ■説明責任を果たせる記録の保持
  • ■社会通念に照らした合理性

免責事項
本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別具体的な税務アドバイスを構成するものではありません。実際の税務処理については、必ず税理士等の専門家にご相談ください。

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飯野明宏税理士
この記事を書いた税理士

飯野明宏税理士公認会計士事務所
代表税理士 飯野 明宏

東海税理士会富士支部所属 登録番号:127320号

公認会計士協会東海会 登録番号:31555号

静岡県富士市横割出身。静岡県立富士高校を卒業後、慶應義塾大学理工学部を経て、早稲田大学大学院会計研究科でMBAを取得。

大学院修了後は、あらた監査法人(PwC Japan有限責任監査法人)や、都内の税理士法人にて勤務。

現在は、地元・富士市・富士宮にて「飯野明宏税理士公認会計士事務所」を運営し、法人税・相続税の両面に強みを活かした専門的なサポートを提供しています。

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