遺産分割後に財産・債務がみつかった場合

2025年5月28日 管理人

1 はじめに

遺産分割協議を終えて、相続人全員が納得したはずなのに、後から新たな財産や借金が見つかることは決して珍しくありません。思わぬものが見つかった場合、どう対処すれば良いのでしょうか?

今回の記事では、遺産分割後に発見された土地、現金、借金について、それぞれどのように対応すべきか、そして注意点について詳しく解説します。

遺産分割協議書について >


2 遺産分割後に土地が見つかった場合

遺産分割が完了した後で、被相続人名義の土地が新たに見つかることがあります。このような場合、原則として遺産分割協のやり直しではなく、この土地についてのみ、相続人全員で再度協議を行う必要があります。既に遺産分割協議書が作成されている場合でも、新たな資産が見つかった場合は別途話し合いが必要です。

協議の内容は、遺産分割協議書に追記する形で整理されることが一般的です。もし協議が難航する場合や、相続人の間で意見が分かれる場合には、弁護士や司法書士などの専門家に相談すると良いでしょう。

協議がまとまったら、見つかった土地の所有権を確定させるために相続登記手続きへと進みます。相続登記を行うことで、法的に土地の所有権が相続人に移転します。

相続登記は義務化されているため、早めに対応するようにしましょう。

相続登記の義務化について >

3 遺産分割後に現金が見つかった場合

遺産分割後に、タンス預金などとして現金が見つかることもあります。この場合も、原則として遺産分割協のやり直しではなく、この現金についてのみ、相続人全員で再協議が必要となります。現金は比較的分割が容易なため、通常は法定相続割合に基づいて相続人に分配されることが多いですが、協議によって異なる分配方法を採用することも可能です。

例えば、特定の相続人が他の財産を受け取っていない場合に、その相続人に多めに配分するという調整も行えます。

協議の結果、全員の同意が得られた場合は、遺産分割協議書にその内容を反映させます。現金は動産のため登記や特別な登録手続きは不要ですが、相続税の申告が必要になる場合もあるため、税理士などの専門家から助言を受けながら進めるのが良いでしょう。


4 遺産分割後に借金が見つかった場合

借金発見時の基本対応

やっかいなのが、遺産分割が終わった後に新たな借金が発覚するケースです。このような場合も、この借金について、やはり相続人全員で再度協議が必要となり、負債をどのように分担するかを決める必要があります。

相続放棄と限定承認

借金や負債を相続することを望まない場合は、相続放棄や限定承認を選択することも考えられます。相続放棄とは、相続人がその権利や義務を一切放棄する手続きで、これを行えば負債を引き継ぐことを避けられます。

ただし、相続放棄には期限があり、相続の開始を知ってから3カ月以内に家庭裁判所へ申請する必要がある点に注意が必要です。

原則として、一度遺産分割協議を行った後では、単純承認とみなされ相続放棄は認められません。しかし、債務の存在を知らなかったなど、遺産分割協議が無効と判断される余地がある事例においては、相続放棄が認められる可能性もありますが、極めて限定的です。

相続放棄について >

債権者からの請求について

重要なポイントとして、債権者は相続人内部での借金の分担に関する合意に関係なく、相続人全員に対して法定相続分で借金を請求することができます。遺産分割協議書に特定の相続人が借金を引き継ぐと記載しても、それは相続人内部の取り決めに過ぎず、債権者には対抗できません。


5 遺産分割協議のやり直しはできる?

やり直しの原則

原則として、相続人全員で一度合意した遺産分割協議は、やり直しはできません。相続人の一人が気が変わったからといって、簡単にやり直しができてしまうと、いつまでたっても遺産分割協議が終わらないからです。

例外的にやり直しが認められるケース

しかし、例外的にやり直しが認められるケースがあります。例えば、新たに見つかった財産が非常に価値が高く、その存在を知っていたら当初の遺産分割協議で合意をしなかったと言える場合など、遺産分割協議の前提が大きく変わる場合です。

また、一部の相続人が意図的に財産を隠していた場合も、他の相続人は遺産分割協議を無効としてやり直しを主張できる可能性があります。さらに、相続人全員が別の分け方の方が良かったと納得し、やり直しに合意した場合も可能です。

やり直しの注意点

ただし、遺産分割協議のやり直しはハードルが高く、相続人全員の合意が必要です。たとえ新たな財産が見つかったとしても、相続人のうち1人でもやり直しに反対する人がいれば、やり直しはできません。

また、やり直しができたとしても、既に売却するなどして第三者に渡ってしまった財産は、基本的に取り返すことはできない点に注意が必要です。

遺産分割協議のやり直しをした場合、贈与税がかかる場合があることにも注意が必要です。

遺産分割協議 (2)


6 相続税の申告と時効

遺産分割後に新たな資産が見つかり、その財産を合わせると相続税の基礎控除額を超える場合などは、相続税の申告が必要となる場合があります。

相続税の時効は、通常5年で成立しますが、悪質な申告漏れがあった場合は7年に延長されます。この期間は、相続税の申告期限から数え始められます。時効が成立するためには、その期間中に税務署からの追徴課税や税務調査が行われていないことが必要です。税務調査などが行われると、時効は中断される可能性があります。

時効が成立すれば、税務署はそれ以上相続税を請求する権利を失いますが、たとえ時効が成立していたとしても、過去に申告漏れなどがあれば税務署から指摘を受けたり、問題が発生したりする可能性があります。

そのため、遺産分割後に財産が見つかった場合は、時効の成立状況に関わらず、税理士などの専門家に相談し、必要な対応を取るようにした方が良いでしょう。予期せぬ課税や罰則を回避し、スムーズに問題を解決するためです。


7 後日のトラブルを防ぐために

遺産分割協議後に財産や負債が見つかることによるトラブルを防ぐためには、いくつかの対策があります。

まず最も重要なのは、遺産分割協議を行う前に、可能な限り被相続人の財産をしっかりと調査することです。

次に、遺産分割協議書を作成する際に、後から記載のない財産が見つかった場合の取り扱いについて、あらかじめ定めておくことができます。例えば、「本遺産分割協議書に記載のない財産が後日判明した場合、相続人○○○○が取得する」、または「相続人○○○○と相続人□□□□が各2分の1の割合で取得する」といったように、取得者を決めたり、取得割合を決めたりする方法があります。

あるいは、「相続人全員であらためて協議する」と定めておくことも可能です。このように、新たな財産が見つかったときに備えて話し合いをしておくことは重要です。

また、遺産分割協議書は、遺産の分け方について相続人全員の合意内容を取りまとめる重要な文書です。書き方に不備があるとトラブルの原因となる危険があるため、専門家に作成を依頼することも検討しましょう。


8 まとめ

遺産分割後に新たな財産や借金が見つかるケースは決して珍しくありません。そのような場合には、慌てずに以下の点を押さえて対応することが重要です。

まず、新たな財産や借金が見つかった場合は、相続人全員での再協議が必要となります。その際は、専門家の助言を受けながら適切に対処することが大切です。

また、事前の対策として、遺産分割協議前の財産調査を徹底し、協議書に後日発見された財産の取り扱いについて明記しておくことで、トラブルを防ぐことができます。

相続は複雑な手続きを伴うため、専門家のサポートを受けながら、冷静かつ慎重に進めることをお勧めします。

是非、私たちにお任せください。

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飯野明宏税理士
この記事を書いた税理士

飯野明宏税理士公認会計士事務所
代表税理士 飯野 明宏

東海税理士会富士支部所属 登録番号:127320号

公認会計士協会東海会 登録番号:31555号

静岡県富士市横割出身。静岡県立富士高校を卒業後、慶應義塾大学理工学部を経て、早稲田大学大学院会計研究科でMBAを取得。

大学院修了後は、あらた監査法人(PwC Japan有限責任監査法人)や、都内の税理士法人にて勤務。

現在は、地元・富士市・富士宮にて「飯野明宏税理士公認会計士事務所」を運営し、法人税・相続税の両面に強みを活かした専門的なサポートを提供しています。

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