相続税の「連帯納付義務」とは?他の相続人が払わないとあなたの財産が狙われる可能性も

2025年5月28日
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2025年5月28日 管理人

1 はじめに

相続が発生すると、様々な手続きに加えて、相続税の申告・納税が必要になります。通常、相続税は各相続人が自分の相続分に応じて計算し、納付するものです。

しかし、「もし他の相続人が税金を納めなかったらどうなるの?」と疑問に思ったことはありませんか?

相続税制度には「連帯納付義務」という仕組みがあり、これを知らないと予期せぬ税負担を負わされたり、自分の財産に影響が及んだりする可能性があります。

連帯責任

連帯納税義務国税庁1

連帯納税義務国税庁2

(出典:国税庁 ➌ 相続税の 納 付

今回は、この重要な制度について詳しく解説します。


2 相続税の連帯納付義務とは?

相続税の連帯納付義務とは、同じ被相続人から財産を受け取った人の中で、誰かが相続税を納めなかった場合に、他の相続人等連帯してその未納分を納めなければならない義務のことです。

この義務は財産を相続した時点から自動的に発生し、原則として解除することはできません。

税金を確実に徴収することを目的として法律で定められており、一度発生すると原則として回避することはできない重要な制度です。


3 連帯納付義務の対象者

3-1 対象となる人

連帯納付義務の対象となるのは以下の人たちです:

法定相続人

遺言によって財産を受け取った人(受遺者)

相続時精算課税制度を利用して生前に財産を贈与された人

3-2 相続放棄をした場合

家庭裁判所で正式な相続放棄手続きをした人は、原則として連帯納付義務から外れることができます。

ただし、相続放棄をしていても死亡保険金や死亡退職金を受け取っている場合は注意が必要です。これらは「みなし相続財産」として課税対象となるため、受け取った人は連帯納付義務の対象に含まれます

また、遺産分割協議での「相続分の放棄」は法律上の相続放棄とは異なり、連帯納付義務は発生するので注意しましょう。


4 いくら払う可能性があるのか?

4-1 負担額の上限

連帯納付義務で負担する税額には上限があります。

限度額 = 相続で取得した遺産の額 – 納付済みの相続税額

例えば、相続で1,000万円の遺産を取得し、自分の相続税として200万円を既に納付していた場合、連帯納付義務の限度額は800万円となります。自分が相続した金額以上の税金を負担する必要はありません。

4-2 加算される税金と延納の可否

連帯納付義務によって納める税金には、利子税が加算されます。これは相続税が完納されるまでの日数に応じて計算されます。さらに、督促状が届いた日の翌日から2ヶ月を経過すると、延滞税が加算される場合もあります。

また、通常の相続税では延納や物納が認められることもありますが、連帯納付義務による納税については延納が認められていません。税務署から納付を求められた場合、原則として期限内に現金で一括納付する必要があります。


5 他の相続人が滞納した場合の手続きの流れ

相続税の申告・納税期限は、相続開始を知った日の翌日から10ヶ月以内です。期限内に納税がない場合の流れは以下の通りです:

5-1 滞納処分の流れ

税務署が滞納者本人に督促状を発送

本人の財産調査・差し押さえ・競売の実施

滞納者本人に差し押える財産がない場合、連帯納付義務者への請求

5-2 連帯納付義務者への具体的な手続き

「完納されていない旨のお知らせ」が発送され、相続人同士で解決するよう促される

「納付通知書」が発送され、納付すべき税額と納付期限(通知書発送から原則2ヶ月以内)が通知される

2ヶ月経過しても完納されない場合、督促状が発送され、連帯納付義務者も滞納処分の対象となる


6 財産の差し押さえについて

6-1 拒否した場合のリスク

「自分が払うべき税金ではないのに…」と連帯納付を拒否したくなる気持ちは当然です。しかし、連帯納付義務は法律上の義務であり、拒否することはできません。拒否を続けた場合、最終的にはあなたの財産が差し押さえられてしまいます。

6-2 差し押さえの順番

差し押さえの順番は法律で明確に決められていません。一般的には本来の納税義務者から差し押さえることが多いとされていますが、本来の納税義務者に差し押さえできる財産がない場合や、不動産など換金しづらい財産しかない場合は、連帯納付義務者の財産が差し押さえられる可能性が高くなります。

税務署は差し押さえしやすい財産(預金など)を持っている人から順に手続きを進める可能性もあり、納税者側には「本来の納税者から先に差し押さえてほしい」と申し立てる権利は法律上認められていません。


7 連帯納付義務の回避・軽減策

7-1 事前の対策

一度発生した連帯納付義務を回避する確実な方法はありませんが、負担を軽減するための対策はあります:

遺産分割協議での慎重な話し合い

  • 相続税の納税資金も考慮に入れ、現金や預金などの金融資産の取得割合を適切に決める
  • 特定の相続人に不動産などの換価しにくい財産ばかりが集中しないよう配慮する
  • 納税が困難そうな相続人がいる場合は、納税資金も含めて相続させる工夫を検討する

納税資金の管理サポート

  • 特定の相続人に滞納の不安がある場合、他の相続人が納税手続きを代行する
  • 相続税分の現金を一時的に預かり、納税完了後に本人に渡すことを決めておく

7-2 連帯納付義務が免除されるケース

以下のいずれかに該当する場合、連帯納付義務が免除されます:

申告期限から5年を経過した日までに、税務署から滞納者本人に対する納付通知書等が発せられない場合

本来の納税義務者が延納の許可を受けた場合

本来の納税義務者が納税猶予の適用を受けた場合

ただし、申告期限から5年が経過しても、その間に税務署から連帯納付義務者に対して通知が発送されている場合は解除されません。


8 連帯納付した場合の権利と注意点

8-1 求償権について

他の相続人の代わりに税金を納付した場合、本来納めるべきだった相続人に対して、支払った税金の返還を求める権利(求償権を持つことになります。

しかし、税金を滞納するような相手からお金を取り戻すのは現実的に困難なケースが多いのが実情です。

8-2 贈与税の問題

本来支払うべき人の相続税を他の相続人が負担した場合、その負担した金額に対して贈与税が課税される可能性があります。


9 まとめ

相続税の連帯納付義務は、あまり知られていない制度かもしれませんが、知らずにいると自分にとって大きな負担となる可能性がある重要な制度です。

重要なポイント

  • 法律で定められた義務であり、原則として拒否することはできない
  • 他の相続人が滞納した場合、最終的には自分の財産が差し押さえられるリスクがある
  • 一度発生した義務を完全に回避する方法はない
  • 事前の対策が非常に重要

対策のポイント

連帯納付義務によるリスクを避けるためには、遺産分割協議の段階から相続人全員が納税できるよう現金預金の配分などを考慮し、お互いに協力して確実に納税を進めることが非常に大切です。

特定の相続人に滞納のリスクを感じる場合は、納税手続きの代行なども検討する必要があるかもしれません。

相続が発生した際は、相続人同士で相続税の連帯納付義務についてもしっかりと認識を共有し、納税がスムーズに進むよう細心の注意を払いましょう。

もしご不安な点がある場合や、対策について詳しく知りたい場合は、相続税に詳しい専門家(税理士など)に早めに相談することをお勧めします。

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飯野明宏税理士
この記事を書いた税理士

飯野明宏税理士公認会計士事務所
代表税理士 飯野 明宏

東海税理士会富士支部所属 登録番号:127320号

公認会計士協会東海会 登録番号:31555号

静岡県富士市横割出身。静岡県立富士高校を卒業後、慶應義塾大学理工学部を経て、早稲田大学大学院会計研究科でMBAを取得。

大学院修了後は、あらた監査法人(PwC Japan有限責任監査法人)や、都内の税理士法人にて勤務。

現在は、地元・富士市・富士宮にて「飯野明宏税理士公認会計士事務所」を運営し、法人税・相続税の両面に強みを活かした専門的なサポートを提供しています。

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