こんにちは。富士市・富士宮の税理士の飯野明宏です。
今回は、家族を役員として迎え入れた際の「役員報酬」について、その決め方・税務上の留意点・節税の可能性を整理して解説します。家族経営をされている方、これから法人設立を検討されている方はぜひ最後までご覧ください。
1 家族に役員報酬を支払うことは可能か?
法人では、役員(取締役・監査役等)に対して「役員報酬」を支払うことが認められており、家族であっても、登記上の役員であれば支給可能です。
ただし、税務上は「実態に見合った報酬かどうか」に注意が必要です。
2 税務上の「妥当な報酬額」の考え方
役員報酬には法律上の上限はありませんが、「業務内容・勤務時間・会社の業績・責任の重さ」等を総合的に勘案し、相当と認められる水準であることが求められます。
よく見られる評価基準
- ■業務への関与度(常勤か非常勤か)
- ■他の役員や従業員とのバランス
- ■類似業種での報酬相場
- ■勤務日報・議事録などの証拠
税務調査では、「勤務実態がなかった」などの理由で否認されることもあるため、報酬額と貢献度が見合っているかを常に意識する必要があります。
具体的な判断基準:
常勤役員の場合:
・月額20万円~50万円程度が一般的
・業務内容と責任に応じた設定
・同規模企業の役員報酬との比較
非常勤役員の場合:
・月額3万円~10万円程度が目安
・出席回数や貢献度に応じた設定
・年間103万円以下に抑えるケースが多い
判断要素:
・実際の勤務日数・時間
・担当業務の内容と重要性
・会社の規模・業績
・他の役員・従業員との均衡
・同業他社との比較
3 役員報酬を支払う6つの節税メリット
役員報酬を支払う6つの節税メリット(ただし、適正な範囲内であることが前提)
① 所得分散による節税効果
家族に報酬を分配することで、所得税・住民税の累進課税を抑えられます。
※注意:報酬額は実際の貢献度に見合った水準であることが必要
② 贈与税・相続税対策
役員報酬として家族に分配することで、贈与や相続による課税を回避できます。
③ 社会保険加入による年金増額
社会保険に加入することで、厚生年金を受給できる可能性が高まります。
※注意:社会保険料負担も増加する
④ 退職金の節税メリット
役員退職金は法人側で損金処理可能で、個人側でも退職所得控除が活用可能です。
※注意:勤続年数と功労倍率に基づく適正額の範囲内
⑤ 倒産リスクに備えた資産分散
報酬を通じて資産を分散しておくことで、万一の事態でも生活資金を確保できます。
⑥ 高額報酬の設定が可能
勤務実態に応じた合理的な理由があれば、高額な報酬を設定することも可能です。
※注意:「不相当に高額」と判断されれば損金不算入となる
4 注意点:役員報酬に関する5つのリスク
家族に役員報酬を支給する際には、税務上のリスクや制約にも十分配慮する必要があります。ここでは、特に重要な3つの注意点を解説します。
① 定期同額給与の原則
法人税法では、役員報酬は毎月同額で支払うこと(定期同額給与)が損金算入の前提とされています。
決算期から3か月以内に報酬額を決定し、それ以降は期中に金額変更できないのが原則です。
ただし、業績悪化などの特別な事情がある場合には、一定の手続きと書面(株主総会議事録等)により減額が認められることもあります。
② みなし役員に注意
登記上の役員ではなくても、実質的に経営に関与している従業員や株主は「みなし役員」として税務上の役員とみなされる場合があります。
みなし役員と認定された場合、その報酬も定期同額給与や賞与制限の対象となり、自由な報酬設計が難しくなるため注意が必要です。
③ 非常勤役員の報酬は慎重に設定する
勤務実態の薄い非常勤役員への高額な報酬は、税務調査で否認されるリスクが高くなります。
特に、年間103万円(所得税の扶養)や130万円(社会保険の扶養)を超えないように報酬を設定するケースでも、実際にどのような業務を行っているのかの説明責任が生じます。
④ 社会保険料負担の増加
役員報酬を支給すると、社会保険料(厚生年金・健康保険)の負担が発生します。
・法人負担分も含めると、報酬額の約30%の負担
・年収130万円を超えると扶養から外れる
・トータルでの税負担軽減効果を慎重に検討する必要
⑤ 税務調査でのチェックポイント
・勤務実態の確認(タイムカード、日報等)
・業務内容の具体性
・役員会議への出席状況
・他の役員・従業員との報酬格差の合理性
・過去の経緯との整合性
5 まとめ 家族への役員報酬は、実態と根拠が重要
まとめ:家族への役員報酬は、適正性と継続性が成功の鍵
家族に役員報酬を支払うことは、適切に運用すれば節税効果の高い手法ですが、以下の点を必ず遵守する必要があります:
必須要件:
- ■実際の業務遂行と勤務実態
- ■報酬額の社会通念上の相当性
- ■定期同額給与の原則遵守
- ■適切な書面整備と記録保存
成功のポイント:
1. 段階的な報酬設定(いきなり高額にしない)
2. 業務内容の明確化と実績の蓄積
3. 継続的な勤務実態の構築
4. 税理士との定期的な相談
注意:
過度な節税を狙った不適切な報酬設定は、税務調査で否認されるリスクが高く、結果的に追徴課税や重加算税のペナルティを受ける可能性があります。適正な範囲内での活用を心がけましょう。