こんにちは。富士市・富士宮の税理士の飯野明宏です。
「家電を買ったらメーカーから5,000円キャッシュバック」「クレジットカードで1%還元」など、キャッシュバックは私たちの身近な制度です。しかし、事業者の方にとって重要なのは、このキャッシュバックで消費税の処理をどのようにするか、という点です。
キャッシュバックの提供元によって消費税の取り扱いが大きく異なります。
1 キャッシュバックの判断基準
キャッシュバックの定義
商品・サービスの購入後に、購入者へ代金の一部が返金される制度です。返金方法は現金振込、ポイント付与、次回割引クーポンなど様々です。
よくあるキャッシュバックの例
- ■スマートフォンメーカーの新機種購入特典
- ■住宅設備メーカーのリフォーム補助金
- ■クレジットカードのポイント還元
- ■ECサイトの購入特典
次に、重要な判断基準をお伝えします。
判断のポイント
キャッシュバックの消費税処理は、提供元との関係性によって決まります。
キャッシュバック提供元 | 消費税の取り扱い | 理由 |
---|---|---|
商品メーカー・販売店 | 課税対象 | 販売促進目的の「値引き」に相当 |
クレジットカード会社・決済業者 | 不課税 | 金融取引の一部(債務免除) |
2 課税取引となるキャッシュバック
製品メーカー等からの販売促進目的キャッシュバック
メーカーが製品購入者(消費者)に対し直接支払うキャッシュバックは、「売上げに係る対価の返還等」に該当します(消費税法基本通達14-1-2)。簡単に言えば、「後から行われた値引き」という考え方です。
消費税法基本通達14-1-2
事業者が販売促進の目的で販売奨励金等の対象とされる課税資産の販売数量、販売高等に応じて取引先(課税資産の販売の直接の相手方としての卸売業者等のほかその販売先である小売業者等の取引関係者を含む。)に対して金銭により支払う販売奨励金等は、売上げに係る対価の返還等に該当する。
例えば、次のようなケースです。
■家電メーカーが新製品を購入した消費者に対し、一定額を後日銀行振込で還元
■ソフトウェア企業が、購入者全員を対象に申請ベースで返金を行う
仕入税額控除の修正が必要
事業者である購入者については、返金されたキャッシュバックは「仕入れに係る対価の返還等」(消費税法基本通達12-1-2)として、課税仕入れの修正対象になります。
消費税法基本通達12-1-2
事業者が販売促進の目的で販売奨励金等の対象とされる課税資産の販売数量、販売高等に応じて取引先(課税仕入れの相手方のほか、その課税資産の製造者、卸売業者等の取引関係者を含む。)から金銭により支払を受ける販売奨励金等は、仕入れに係る対価の返還等に該当する。
事業者が事業用資産を購入し、後日キャッシュバックを受けた場合には、次の処理が求められます。
■購入時:課税仕入れとして消費税を仕入税額控除
■キャッシュバック受領時:控除済みの消費税から相当額を減額(返還)
リンク 国税庁 消費者に対するキャッシュバックサービスの課税関係
3 不課税取引となるキャッシュバック
クレジットカード会社等からの返金
クレジットカード利用額に応じて、カード会社が一定額をキャッシュバックする場合、これは消費税の課税対象外です(不課税取引)。その理由は「債務免除」に該当すると解釈されるためです(消費税法基本通達12-1-7)。カード会社は商品の販売に直接関与しておらず、あくまで金融サービスの一環として還元を行っています。
消費税法基本通達12-1-7
事業者が課税仕入れの相手方に対する買掛金その他の債務の全部又は一部について債務免除を受けた場合における当該債務免除は、仕入れに係る対価の返還等に該当しないことに留意する。
■購入者が商品を購入(販売店が売上計上)
■クレジットカード会社が立替払いを行い、後日購入者にキャッシュバック
この場合、カード会社は販売には関与しておらず、購入と返金の間に「対価性」が存在しないと判断されます。
課税仕入れの修正は不要
このような不課税キャッシュバックについては、購入者(事業者)側での仕入税額控除の修正は不要です。キャッシュバックは単なる「債務の減免」として扱われ、消費税の課税対象から外れます。したがって、「雑収入」として所得を構成します。
4 実務での注意点とまとめ
キャッシュバックの消費税処理について、実務で特に注意したいのは次の点です。
■メーカー等からのキャッシュバックは課税対象
→ 仕入税額控除の調整が必要(購入者が事業者である場合)■クレジットカード会社等からの返金は不課税
→ 債務免除扱い、仕入税額控除の調整不要■販促目的か、金融取引の一部かの違いが判断基準
キャッシュバックの形態は多様ですが、その税務処理は提供元との関係性により大きく異なります。