こんにちは。富士市・富士宮の税理士の飯野明宏です。
マイホームの売却と新居の購入を検討されている方から、「売却時の3000万円特別控除と住宅ローン控除は一緒に使えるの?」というご質問をよくいただきます。結論から申し上げると、原則として併用はできません。
今回は、なぜ併用できないのか、その理由と例外的なケースについて、わかりやすく解説していきます。
1. まずは基本を理解しよう!2つの税制優遇制度
居住用財産を譲渡した場合の3000万円の特別控除
マイホームを売却して利益(譲渡益)が出た場合、最高3000万円まで税金がかからない特例です。例えば、3500万円で購入した自宅を4000万円で売却した場合、通常なら500万円の利益に税金がかかりますが、この特例を使えば税金は0円になります。
住宅ローン控除(住宅借入金等特別控除)
住宅ローンを利用してマイホームを購入・改築した場合に、年末のローン残高の一定割合を税金から直接差し引ける制度です。
2. なぜ併用できないの?法律で決まっている理由
住宅ローン控除の適用要件に制限がある
住宅ローン控除を受けるための条件の一つに、「過去に3000万円特別控除を受けていないこと」が明記されています。つまり、法律上、併用は最初から想定されていないのです。
併用禁止期間は合計6年間
令和2年度の税制改正により、併用できない期間が延長されました。
改正前: 新居入居年の前後2年間(計5年間) 改正後: 新居入居年とその前2年、居住の用に供した日の属する年の翌年以後3年以内(計6年間)
例えば、令和7年に新居に入居した場合:
- 令和5年〜令和10年の間に3000万円特別控除を使うと
- 住宅ローン控除は一切受けられません
この改正は、「新居に住み始めてから3年後に旧居を売却して特例を使う」という抜け道を防ぐためです。
3. 例外的に両方の恩恵を受けられる「レアケース」
原則として併用はできませんが、タイミングをうまくずらすことで、結果的に両方の制度を活用できる場合があります。
売却→賃貸→購入のパターン
- 旧自宅を売却し、3000万円特別控除を適用
- 3年程度賃貸住宅で生活
- 新居を購入し、住宅ローン控除を適用
このように期間を空けることで、両方の制度の恩恵を受けることが可能です。ただし、賃貸期間中の家賃負担などを総合的に考慮する必要があります。
4. 一度適用した制度から変更はできる?
売却と購入のタイミングによっては、「先にこちらの特例を使ったけど、後からもう一方の方が有利だった」ということもあります。そんな時、変更は可能なのでしょうか?
「3000万円特別控除」を先に適用した場合
変更不可です。 一度適用した3000万円特別控除を取り消すことは認められていません。後から住宅ローン控除に切り替えることはできません。
「住宅ローン控除」を先に適用した場合
変更可能です。 住宅ローン控除を取り消して、3000万円特別控除に切り替えることができます。ただし:
- 修正申告が必要
- これまで受けた住宅ローン控除分の税金を返還
- 手続きが複雑
まとめ:事前のシミュレーションが何より重要
マイホームの売却と購入は人生の大きな出来事です。どちらの制度を選ぶかによって、税負担が大きく変わる可能性があります。
重要なポイント:
- 原則として併用はできない
- 併用禁止期間は6年間
- タイミングをずらせば両方活用できる場合もある
- 3000万円特別控除から住宅ローン控除への変更は不可
- 住宅ローン控除から3000万円特別控除への変更は可能(手続き必要)
どちらの制度がご自身にとって有利なのか、ライフプランと合わせて事前にしっかりとシミュレーションすることをお勧めします。
また、実際の適用については、私たち他、税理士の判断をあおいでください。