1 2024年10月1日から新制度がスタートしています
こんにちは。富士市・富士宮の税理士の飯野明宏です。
2024年10月1日より、「代表取締役等の住所非表示制度」が新たに施行されています。これにより、株式会社の登記事項証明書に記載される代表取締役等の住所について、一定の手続きを行うことで、都道府県名や市区町村名までの表示にとどめ、それ以降の番地等の詳細を非表示にすることが可能になります。
2 制度の対象者と概要について
この制度の対象となるのは、株式会社における次の役職者です:
- ■代表取締役
- ■代表執行役
- ■代表清算人
申出を行うことで、登記事項証明書等(登記事項要約書を含む)に記載される住所が、市区町村名までに簡略化され、詳細な住所は記載されなくなります。ただし、登記簿そのものには従来通り、住所のすべてが記録されたままです。
【表示例】
- ■変更前:東京都文京区湯島○丁目○番○号
- ■変更後:東京都文京区
3 導入の背景と制度の目的
この制度は、従来の住所公開によるプライバシー侵害や安全性の懸念に対処するために導入されました。インターネットで容易に登記事項証明書が取得できる現代において、代表者の住所が無制限に公開されることには多くの問題がありました。本制度は、プライバシー保護と取引の安全性のバランスを図ることを目的としています。
4 代表取締役住所非表示制度の効果と影響
4-1 プライバシー保護と安全性向上のメリット
- ■個人の住所が第三者に広く知られることを防ぎ、プライバシーの保護につながります。
- ■ストーカー被害や嫌がらせ等から身を守る効果が期待されます。
- ■自宅兼事務所としている場合に、自宅の所在地が不特定多数に知られないことで、家族の安全確保にも寄与します。
- ■起業時に住所公開に抵抗を感じていた方にとって、起業のハードルを下げる制度です。
4-2 制度利用の適性判断とチェックポイント
代表取締役住所非表示制度を利用するかどうかは、慎重な検討が必要です。以下のチェックポイントを参考に判断してください。
制度利用を検討すべき企業・代表者
- ■自宅兼事務所で営業している個人事業主から法人成りした場合
- ■SNSやメディアへの露出が多く、プライバシー保護の必要性が高い場合
- ■IT・コンサルティング業など、物理的な事業所の重要性が低い業種
- ■過去にストーカーや嫌がらせを受けた経験がある場合
- ■家族の安全を重視する必要がある場合
慎重な検討が必要な企業・代表者
- ■金融機関からの融資を頻繁に受ける製造業や建設業
- ■不動産業など、信用力が重視される業種
- ■BtoB取引が中心で、取引先からの信頼性確認が重要な業種
- ■上場を目指している企業(将来的な信用調査への影響)
5 考慮すべきデメリットと影響
- ■登記事項証明書が住所証明として利用できなくなります。
- ■金融機関の与信審査において、審査が長引いたり、追加資料の提出を求められたりする場合があります。
- ■不動産取引や行政手続において、書類の追加提出が必要になることがあります。
- ■社会的信用や取引先からの信頼に影響を及ぼす可能性があるため、慎重な検討が求められます。
金融機関の与信審査への具体的影響 東京商工リサーチの調査(2024年)によると、金融・保険業の36.5%が「取引先の代表者住所が非公開となった場合、与信判断にマイナスになる」と回答しています。具体的には、以下のような影響が予想されます:
リンク 東京商工リサーチ 代表者の一部住所の非公開がスタート、選択するか「わからない」が半数 与信上「マイナス評価」が約2割
- ■融資審査期間の延長(通常より1-2週間程度)
- ■追加の身元確認書類の提出要求
- ■保証人や担保の条件が厳しくなる可能性
- ■新規取引開始時の審査が より慎重になる
6 制度を利用するための申出手続きの流れ
申出は、以下の登記手続きと同時に行う必要があります:
- ■株式会社の設立登記
- ■本店移転登記(他の登記所管轄区域に移転する場合)
- ■代表取締役の就任や住所変更による登記
- ■代表清算人の就任や住所変更による登記
申出先は、株式会社の本店所在地を管轄する法務局または地方法務局です。
7 申出に必要な添付書類
- ■上場企業:株式が上場されていることを示す証明書(金融商品取引所のWeb情報など)
- ■非上場企業:
- □本店の実在性を証明する書類(配達証明の郵便物や司法書士等による確認書)
- □氏名・住所を証する市区町村発行の証明書(住民票の写し、印鑑証明など)
- □実質的支配者の本人確認資料(法令に基づく資格者代理人の確認記録など)
8 留意点と制度の持続に関する注意
- ■非表示措置は、株式会社に限られます。他の法人形態には適用されません。
- ■過去に登記された住所情報は非表示対象外です。
- ■住所に変更が生じた場合には、引き続き変更登記を行う必要があり、再度の申出も求められます。
- ■非表示措置が講じられていても、代表取締役の登記上の住所情報は維持されており、必要に応じて利害関係者がアクセスできる仕組みは残されています。
過去の住所との混在表示について 特に注意が必要なのは、過去に登記された住所は非表示の対象外となることです。
具体的な表示例:
この場合、過去の詳細住所は引き続き表示されるため、完全なプライバシー保護は実現されません。
年次更新について 代表取締役住所非表示措置に年次更新の手続きはありませんが、以下の場合には再申出が必要です:
- ■代表取締役の住所が変更された場合
- ■代表取締役が重任した場合(住所変更がなくても再申出可能)
- ■本店を他の管轄区域に移転した場合
9 制度終了となる場合について
以下の場合、非表示措置は終了となり、登記事項証明書に住所の詳細が表示されるようになります:
- ■会社自身が非表示措置を希望しない旨の申出を行ったとき
- ■法務局が、会社が本店所在地に実在しないと判断したとき
- ■上場企業が上場を廃止したと判断されたとき
- ■登記記録が閉鎖された場合を除き、閉鎖後に復活登記が認められるとき
措置終了の申出は登記と同時でなくても構いません。費用はかかりません。
10よくある質問と回答
Q1. 既に登記されている住所も非表示になりますか? A1. いいえ。過去に登記された住所は非表示の対象外です。新たに登記される住所のみが非表示となります。
Q2. 一度申請したら取り消すことはできますか? A2. はい。会社からの申出により、いつでも制度を終了できます。終了の申出に費用はかかりません。
Q3. 複数の代表取締役がいる場合はどうなりますか? A3. 各代表取締役ごとに個別に申出が必要です。一部の代表取締役のみ非表示にすることも可能です。
Q4. 制度利用後、住所を証明する必要がある場合はどうすればよいですか? A4. 住民票の写しや印鑑証明書など、他の公的書類での証明が必要になります。取引先と事前に確認することをお勧めします。