こんにちは。富士市・富士宮の税理士の飯野明宏です。
事故は身体的・精神的な負担に加え、損害賠償金の受け取りに伴う税金の取扱いについても、不安や疑問が生じる場面です。
本記事では、交通事故により損害賠償金を受け取った場合に、相続税や所得税がかかるのかどうか、その考え方を解説します。
1 交通事故の損害賠償金に相続税はかかる?
交通事故によって被害者が亡くなり、遺族が加害者から損害賠償金を受け取る場合、原則としてその損害賠償金は相続税の課税対象とはなりません。
その理由は、損害賠償金(慰謝料など)が「亡くなった方の財産」ではなく、「遺族自身の権利」として支払われるものであると考えられているためです。したがって、遺族が受け取る慰謝料等は、相続によって取得したものではなく、固有の権利による受領と位置付けられます。
2 所得税の課税関係~多くは非課税に
遺族が受け取る損害賠償金については、所得税法上も原則非課税とされています。
次のような損害賠償金は非課税となります。
非課税の損害賠償金(主な例)
- ■事故による負傷に対する治療費
- ■事故による慰謝料
- ■事故により収入を失ったことへの休業補償
- ■車両や建物などの資産の破損に対する物損賠償金
- ■社会通念上相当と認められる範囲の見舞金
このように、身体や財産への損害に対して支払われる損害賠償金は、所得税の課税対象にならないのが原則です。
3 例外的に課税されるケースもある
損害賠償金がすべて無税というわけではありません。以下のようなケースでは相続税や所得税の対象となることがあります。
1. 被害者本人が「受け取る権利」を有していた場合
加害者に対して損害賠償請求をしており、裁判中または和解が成立していたようなケースで、被害者本人が損害賠償金を受け取ることが確定していた場合、その「損害賠償請求権」が相続財産とされ、相続税の対象となります。
2. 損害賠償金が「事業に関する補填」の場合
事業に関連する以下のような賠償金は、所得税法上の非課税対象とはならず、事業所得や雑所得として課税されることがあります。
■壊れた商品に対する賠償金(棚卸資産の補填)
■仮店舗の家賃補償など経費補填に相当する金額
■配送用車両の破損に対する補填(ただし損金算入の関係に注意)
このような場合には、損害賠償金の一部または全部が課税対象となるため、個別の検討が必要です。
4 損害賠償請求権が相続された場合の評価方法
損害賠償請求権が相続された場合、その評価額は財産評価基本通達に基づいて計算されます。ただし、具体的な損害額が未確定である場合には、相続開始後の和解や判決内容に基づき、受け取った金額をもって評価されるのが一般的です。
実務では、相続税申告において「請求権があることを申告書に記載し、後日修正申告する」という対応になる可能性が高いです。
5 まとめと実務上の注意点
交通事故に伴う損害賠償金の税務処理は、支払目的や受領者、事故との関係性によって異なります。主な整理は以下のとおりです。
項目 | 所得税 | 相続税 |
---|---|---|
遺族への慰謝料(死亡慰謝料) | 非課税 | 非課税 |
被害者本人が生前に受け取る権利を有していた損害賠償金 | 非課税 | 課税対象(請求権) |
物損賠償(私用車・家屋等) | 非課税 | 非課税 |
事業資産の補填(営業車・機材など) | 原則課税 | 該当すれば課税対象 |
損害賠償金のように、相続財産として見落とされがちな項目についても、場合によっては課税対象となる可能性があります。不安がある場合や判断に迷う場合は、税理士などの専門家にご相談されることをおすすめします。