1 小規模企業共済制度とは?
こんにちは。富士市・富士宮の税理士の飯野明宏です。
小規模企業共済制度は、中小企業の経営者や役員、個人事業主の方が、将来の退職や廃業に備えて資金を積み立てる制度です。掛金は全額が所得控除の対象となり、毎年の所得税・住民税の節税効果が期待できます。
本制度は、老後資金の確保という本来の目的だけでなく、加入者が亡くなった場合には相続税対策としても活用することが可能です。
2 共済金と相続税の関係
小規模企業共済の共済金が死亡退職金として扱われ、非課税枠の適用を受けるためには、以下の事業継続要件と3年以内支給確定要件を満たす必要があります。
死亡退職金として認められる要件
事業継続要件:共済契約者が死亡する直前まで、個人事業主または会社等の役員として事業に従事していること
3年以内支給確定要件:相続開始から3年以内に共済金の支給が確定すること
これらの要件を満たさない場合、共済金は死亡退職金ではなく「債権」として本来の相続財産に含まれ、非課税枠の適用を受けることができません。
たとえば、個人事業主が事業を廃業してから数年後に亡くなった場合や、会社役員が退任してから亡くなった場合には、共済金の受給権は相続財産として課税対象となりますので注意が必要です。
共済金の受け取り方によって、課税の取り扱いが異なります。加入者本人が生前に共済金を受け取った場合には所得税の課税対象になりますが、本人が亡くなり、遺族が共済金を受け取る場合には「死亡退職金」として相続税の対象となります。
この死亡退職金は、相続税法上の「みなし相続財産」に該当し、以下の非課税枠が適用されます。
非課税枠:500万円 × 法定相続人の数
たとえば、法定相続人が2人いる場合は1,000万円まで非課税となり、相続財産の総額から除外されます。
3 制度活用時の注意点
相続税対策として小規模企業共済を活用する際には、いくつかの重要な注意点があります。
1. 老後資金としては使えない場合がある
共済金を老後資金として生前に使ってしまうと、相続税の非課税枠は適用できません。相続対策として活用するには、共済金を死亡時に遺族が受け取ることが前提になります。
2. 受取人を自由に指定できない
小規模企業共済では、生命保険とは異なり、共済金の受取人を契約者が自由に指定することができません。共済金の受給権者は、法律で配偶者が第1順位と定められており、民法上の法定相続とは異なる点に注意が必要です。
3. 二次相続への影響
配偶者が共済金を受け取ると、一次相続では配偶者控除により税額が軽減される可能性がありますが、その配偶者が亡くなった際の「二次相続」では、取得した共済金も含めて課税対象となります。将来の二次相続まで見据えた資産配分の検討が必要です。
配偶者控除と二次相続について >
4. 契約者貸付のある場合の取り扱い
小規模企業共済では、掛金の一定範囲内で契約者貸付を受けることができますが、相続発生時の取り扱いには注意が必要です。
相続税での取り扱い 契約者貸付がある場合でも、相続税の計算では「借入れを差し引いた純額」ではなく、「共済金の総額」が相続財産に計上されます。これは生命保険の契約者貸付とは異なる取り扱いです。
具体例 共済金総額:2,000万円 契約者貸付残高:300万円 相続財産計上額:2,000万円(←貸付残高を控除しない) 実際の受取額:1,700万円(←貸付残高を差し引いた金額)
この場合、非課税枠の計算も共済金総額の2,000万円を基準に行われます。一方、貸付残高の300万円は被相続人の債務として債務控除の対象となります。
このため、契約者貸付を多用している場合には、相続税の計算において想定以上の税負担が生じる可能性があります。
5. 過納掛金・前納減額金は「本来の相続財産」になる
小規模企業共済の共済金とは別に、以下の金額がある場合には、これらは共済金には含まれず、相続時には「未収金」として本来の相続財産に含まれます。
本来の相続財産となるもの 過納掛金:納付済み掛金のうち、共済金の計算に含まれない部分 前納減額金:掛金を前納した際の割引相当額 その他未収金:中小機構からの各種還付金等
重要な注意点 これらの金額には死亡退職金の非課税枠(500万円×法定相続人の数)の適用はなく、他の遺産と同様に相続税の課税対象となります。
具体例 共済金:1,500万円(死亡退職金・非課税枠適用あり) 過納掛金:100万円(本来の相続財産・非課税枠適用なし) 前納減額金:50万円(本来の相続財産・非課税枠適用なし)
このため、相続税の申告においては、共済金と過納掛金等を明確に区分して計上する必要があります。
4 制度の活用にあたって
小規模企業共済は、老後の備えとしての有効性はもちろん、相続税の節税手段としても高い効果が期待できます。特に生命保険と併用することで、それぞれの非課税枠を活かした合理的な資産承継が可能となります。
ただし、制度には独自の制約や注意点があるため、相続人の構成や財産状況を踏まえたシミュレーションが不可欠です。制度の特性を正しく理解し、相続税対策として有効に活用するためには、専門家への相談が推奨されます。
まとめ
小規模企業共済制度は、掛金の全額所得控除に加えて、遺族が共済金を受け取る場合には「500万円×法定相続人の数」の非課税枠が適用される相続税対策にもなり得る制度です。
生命保険と組み合わせて活用すれば、節税効果をさらに高めることができます。ただし、老後資金として使ってしまうと非課税枠は使えなくなり、また、受取人指定や二次相続などの面で注意点も多くあります。