こんにちは。富士市・富士宮市の税理士、飯野明宏です。
令和5年10月に導入された「インボイス制度(適格請求書等保存方式)」は、すべての事業者に大きな影響を及ぼしています。特に、これまで消費税の申告・納税義務がなかった免税事業者の皆さまにとっては、「インボイス発行事業者になるかどうか」は重要な判断事項です。
当事務所でも制度導入時にインボイス制度の基礎を解説してきましたが、
令和7年4月に国税庁が「インボイス制度に関するQ&A」を改訂したことを受け、今回はあらためて免税事業者がインボイス発行事業者になる手続きと注意点をまとめ直しました。
1 免税事業者がインボイス発行事業者になるには?
■ 原則的な手続き
免税事業者がインボイス発行事業者になるには、次の2つの書類の提出が必要です:
「消費税課税事業者選択届出書」(課税事業者になるため)
「適格請求書発行事業者の登録申請書」(インボイス発行事業者としての登録)
ただし、これには特別な経過措置が存在します。
2 特別な経過措置とは?
インボイス制度の導入に伴い、免税事業者向けに以下の特例措置が設けられています:
📌 令和5年10月1日〜令和11年9月30日までの登録申請で、
「登録申請書」に登録希望日(申請日から15日以降)を記載すると
その日から課税事業者として登録されたものとみなされる
👉 この場合、「課税事業者選択届出書」の提出は不要です。
※登録希望日以降に通知が届いたとしても、希望日から有効とされます。
3 課税事業者となるタイミングと消費税申告
■ 登録日=課税事業者となる日
通常は「登録日」、経過措置を利用すれば「登録希望日」から課税事業者扱いとなります。
この日以降の取引については、たとえ売上が少なくても消費税の申告・納税が必要です。
■ 2年間は免税に戻れない
経過措置を使って登録した場合、登録日の属する課税期間の翌課税期間から2年間は免税事業者に戻れないというルールもあるため注意が必要です。
4 小規模事業者向け「2割特例」とは?
■ 2割特例の概要
消費税の事務負担軽減のため、**2割特例(小規模事業者に対する税額控除特例)**が設けられています。
売上にかかる消費税の 2割のみ納税
残りの8割は仕入税額控除として自動で差し引かれる扱い
👉 令和5年10月1日~令和11年9月30日の課税期間中に適用可能です。
■ 適用できないケース
以下の課税期間には2割特例は適用不可:
基準期間の課税売上高が1,000万円超
新設法人や特定新規設立法人に該当する場合
1,000万円以上の高額特定資産を仕入れた場合
5 「少額特例」との違いも知っておこう
■ 少額特例の概要
基準期間の課税売上高が1億円以下、かつ特定期間で5千万円以下の事業者は、
1万円未満の仕入れであれば、帳簿保存のみで仕入税額控除OK(インボイス不要)。
この「少額特例」は請求書保存要件の緩和であり、2割特例の納税額軽減とは別制度です。
6 課税選択届出書の提出には注意!
■ うっかり提出で特例が使えなくなることも…
免税事業者が、経過措置を利用すれば本来「課税事業者選択届出書」は不要ですが、
これを誤って一緒に出してしまうと、課税事業者としての取り扱いが早まってしまい、2割特例が使えなくなることがあります。
7 間違えた場合の対処法:「不適用届出書」の活用
たとえば、
令和5年9月29日に登録申請と選択届出書を同時提出
令和5年10月1日登録となったが、2割特例が使えない!
という場合でも、「消費税課税事業者選択不適用届出書」を令和5年12月31日までに提出すれば、
課税事業者扱いが10月1日からとなり、2割特例の適用が可能となります。
まとめ 免税事業者のインボイス登録は慎重に
経過措置により「登録希望日」から課税事業者になれる
消費税の申告は必須に
2割特例や少額特例の活用で納税負担を軽減できる
書類提出の順序や組み合わせによっては、特例の適用が受けられなくなるリスクも