こんにちは。
富士市・富士宮市の税理士、飯野明宏です。
消費税の納税額は、「売上にかかる消費税」から「仕入れや経費にかかる消費税」を差し引いて計算します。
この差引計算の中で特に重要なのが、「仕入控除税額の計算方法」です。
事業者の方は、「本則課税」か「簡易課税」のどちらかを選択することになります。
本記事では、その仕組みと選び方のポイントを、実務に即してわかりやすく解説します。
1 消費税の基本構造をおさらい
消費税の納税額は、以下の計算式で求められます。
この「仕入控除税額」の求め方によって、本則課税と簡易課税に分かれます。
2 本則課税(一般課税)とは?
本則課税は、消費税法で定められた原則的な計算方法です。
仕入や経費にかかった消費税を、実際の帳簿や請求書に基づいて一つずつ集計・分類して控除額を算出します。
✅ 本則課税の対象者
課税売上高が5億円超の事業者
または5億円以下でも、課税売上割合が95%未満の事業者
3 仕入控除の3つの区分(個別対応方式)
本則課税では、仕入れや経費を次のように区分して税額控除の対象とします。
区分 | 内容 | 控除可否 |
---|---|---|
① 課税取引専用 | 課税売上のみに使う | 全額控除可 |
② 非課税取引専用 | 非課税売上のみに使う | 控除不可 |
③ 共通用途 | 課税・非課税両方に使う | 課税売上割合を乗じて控除 |
※課税売上割合=(課税売上 ÷ 総売上)
4 一括比例配分方式(簡略化ルール)
経費が①②③に明確に区分できない場合には、「一括比例配分方式」が使えます。
これは、全体の仕入控除税額に課税売上割合を掛けて一括計算する方法です。
特徴 |
---|
・一度選択すると2年間継続適用が必要 |
・原則の個別対応方式より簡便 |
5 課税売上割合95%以上なら「全額控除」できる例外も
売上のほとんどが課税取引である(=課税売上割合が95%以上)
かつ、売上高が5億円以下の場合には、共通経費の消費税も全額控除可能です。
この特例は、多くの中小企業に該当します。
6 簡易課税とは?(基礎的なおさらい)
簡易課税は、基準期間の課税売上高が5,000万円以下の事業者が選べる特例的な計算方法です。
✅ 特徴
仕入控除税額を「みなし仕入率」で計算
実際の仕入や経費を一つ一つ計算する必要がない
7 本則課税 vs 簡易課税|選び方のポイント
どちらの計算方法を選ぶかによって、納付税額や事務負担が大きく異なります。
比較項目 | 本則課税 | 簡易課税 |
---|---|---|
対象者 | すべての課税事業者 | 基準期間売上5,000万円以下 |
計算精度 | 実額に基づく精緻な計算 | みなし率による簡便計算 |
仕入控除 | 実額集計が必要 | 不要(みなし仕入率適用) |
事務負担 | 高い(帳簿・請求書管理) | 低い |
有利なケース | 設備投資が多い、輸出が多い | 経費が少ない |
8 どちらを選ぶべき?
例えば以下のようなケースでは本則課税が有利です。
高額な設備投資を行った
輸出取引が多く、消費税が非課税で還付が狙える
逆に、
経費があまりかからず、仕入控除が少ない
売上高が安定していて帳簿処理の簡便さを重視したい
という場合には、簡易課税が有効です。
まとめ 計算方法の選択は重要
消費税の計算方法には「本則課税」と「簡易課税」がある
どちらを選ぶかで納税額も事務負担も大きく変わる
本則課税:実額ベースで制度が複雑だが正確
簡易課税:みなし率で簡便、届出が必要
正しい選択のためには、専門家の判断が不可欠